私のポリシー パート2
会う回数が減ったのは、こないだ来た体格の良い二人組が「あんまりややこしい時期に遊んでばっかりいるなよ」と注意したから、というのもあったみたい。
あの二人は梶組という暴力団の組長と若頭だった。吉川の半グレ集団のケツ持ちをしている組のトップだった。吉川は梶組の力を利用してあちこちの半グレ集団を揉めながらも急成長していた。しかしやはり同じく組織を背景に持つ半グレ集団とも出くわす。お互い半グレ同士のケンカにヤクザが後ろから出て行く。やがてはあの地域の利権を巡ったヤクザ同士の抗争に発展しつつあった。しかも吉川のチームから南川君という裏切者も出てしまった。そこをしかも自分たちのケツ持ちをしてくれている組織からの情報だったという情けない話でもあったため、自分たちの戒めで自粛、という意味もあったのだろう。
その頃から、二回ほど私が吉川と会った後に尾行されることがあった。地下鉄の中では分からないが、路面電車に乗るとどうもあいつらの雰囲気って異質で、顔を知らない奴を投入しても何となく浮いてきてこっちは分かってくるものだ。おそらく東尾の手先を放ってきたんだと思う。どこかで見たことあるやつ、見たことないけど、何となく分かる奴の二回だった。私は即座に最寄り駅の二つ手前の、江崎君が降りた駅で私も降りる。そして歩いてどんどん地元民しか分からない道へ入り込んでいく。あの辺りは駅から五分も歩けば物凄く入り組んだ、近所の人でないとちょっと理解不能な道が多い。そしてどこか角を曲がったところで走ってまた次の角を曲がれば、多分土地勘のないあいつらからしたらもう分からなくなったのだろう。
というのは私は、予備校入ってすぐの合コンの時に、無理矢理というか調子に乗って酒を飲みすぎて酩酊してしまって、ヤラれてしまったことがあった。あの時に後から思ったのが、身分とか調べられたくないなあ、と。幸いなかったと思うが男の中には撮影したがる輩もいる。そんなやつは財布から学生証など身分証を一緒に写して撮影したがる。
実際高校の時に同級生が調子に乗ってアホな顔して裸でピースしている写真やら、学生証顔の横で持っている写真をSNS上で晒された子がいた。男からは「二人の思い出に」とかうまいこと言われて撮影することを許可したらしいが、実際は晒し目的、営利目的だった。
どう処理したのかは本人が学校に来なくなってしまったから分からないが、学校にも警察が来たようだから、そういうことにはなっていたと思う。けどネット上なので誰かが拾ってまたアップされていたら際限なく広がっていく。国内ならとことん処理もできるみたいだが、海外のサーバーとかでアップされてしまうともう無理だろう。そういうことは避けたいし、最悪意識不明に陥ったところを撮られたとしても、身分は晒したくなかった。
私は男と会う時は、身分証やカード類を一切持ち歩かなかった。ICカードや学生証ですら、だ。平日そのまま会いに行くときは友達に持っておいてもらうか、あるいは駅のコインロッカーなどを利用してそこに置いていた。
基本はいったん家に帰って財布の中身をお金以外は空にする、がマイポリシーだった。だから吉川にすれば私が本当に角谷亜香里で、どこに住んでいて、本当に予備校生か?という確証は何もなかった。
これが正解だった。一応は逃げ切れる決め手となった。
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