私のポリシー
私はその後どうやって帰ったのかは覚えていないけど、ホテルに着いて、屍みたいになっている私に乗ってきたのは覚えている。今までしてくれていた避妊も、それからはしてくれなかった。
私のポリシーは、避妊しない男とは絶対にしない、だった。
初体験の男との関係がすぐに終わったのも多分、というかほぼそれ。最初の時、避妊してくれなかった。あの平家蟹みたいな顔したアイツは出したあと無責任にも、『こんなに出したらできちまったかもな』
『もうおまえの全ては俺のものだ』
『今日からは俺の女だからなあ』
そんなことを連呼していた。後の二つは言わせておけばいい。最初の一つ目が問題だ。できた後の責任は誰がとる?私の身体のダメージはどうなる?そしてなにより、新しい命が誕生した時、いったいどうするんだ?という切実な話が待っている。そんなことを全くに考えずに、その後も避妊せずにヤラせろ、と平気で言ってくる。そして拒むと無理やりにでもしようとしてくる。私は絶対にさせなかった。千歩譲って避妊具をつけずにしてもいいが、外に出すように、と言った。それでもそうしようとしない時は、後ろからだったため、馬のように後ろ足で蹴り飛ばしてやった。平家蟹は達しながら後ろ向きに倒れ込み、その時に自分でまき散らしたものを浴びてしまった顔で「なんでおまえはそんな奴なんや?!」と叫んでいた。蟹が泡食っているのかと思った。
――――こっちの台詞だバーカ。
なんでおまえこそ、私の身体や私の未来のことを考えずに、ただ支配欲と肉欲を満たすだけの獣に成り落ちてるんだ?!と。
それが別れた原因だったと思う。その後、平家蟹の友達とした時も、こいつも避妊せずに無理矢理にでもやろうとしてきたので、蹴りまくってやった。私は当時から身体が大きいのと、運動神経が良いのと、筋力も発達していたのもあって、身体の喧嘩をさせてもなかなかに強かった。普通の同年代の男子なら負けることはなかったと思う。
あいつらからしたら、セックスはするけれど、支配欲が満たされない女だった気がする。身体の関係があった男たち皆がそう感じていたかもしれない。
だって、こちらを将来不安で仕方ないようにさせる男たちなのに、なんで妊娠してしまうかもしれない行為をさせないといけないわけ?
そこが全くもってこの手のチャラ男たちに対する憤りを持っていたところだった。だから私は付き合ってセックスはするし、それなりに楽しむし、私も気持ちよくなるけれど、避妊だけは男に絶対させる。しない男とはいっさいしない。しようとしたら暴力を振るってでも阻止する。それが私の将来のため、未来のため、生まれて来てしまった命を摘むという余計な不幸を背負わないためのルールだと決めていた。
吉川はそんなことまったくおかまいなしになった。私が吉川を恐れて抵抗できなくなってしまった。斯くして私のポリシーはいとも簡単に踏みにじられた。誰でもあんな残虐行為の連続を見せつけられたらそうならないか?戦意喪失‥‥。
私はその日からアフターピル、あるいは事前のピルを飲むことで妊娠は避け続けた。
合わせて性的な快感も無くなっていき、ただ終わるまで我慢しているだけのようになり、怖いから演技はするものの、どこか見透かされていたようで、関係も徐々に冷めて行ったように思う。行為をする場所もホテルから、彼の立売堀の部屋になった。それでも高級なマンションだったけど。会う回数も毎日のように会っていたのが三日に一度、週に一度、呼び出されたら売春婦のようにセックスだけしに行き、終わったら帰る、そんな生活。そして頭の中は、いつか逃げなければ、その言葉ばかりが占拠しだすようになった。
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