バレたか?!

「ただいま~」

LDKにいるお母さんと阿須那にだけ挨拶をして、先に脱衣場へ。お母さんは既に晩御飯の準備にかかり、阿須那はベランダで洗濯物を入れていた。お母さんは見えない「コ」の字型の動線上の奥側から声だけ聞こえたので多分キッチンにいる。阿須那は黄緑色のルームウェアとハーフパンツがベランダで見えたから間違いない。


脱衣場では洗濯機がおそらくその日第二弾の洗濯前だった。洗濯機には洗濯ものがまだそんなにない。おそらく脱衣場にあった分だけ洗濯機にとりあえず入れただけなんだろう。まだあちこちから阿須那が集めてきてから洗剤を入れてスタートスイッチをオンするはず。しめしめ‥‥私は靴下を脱いで、ハンカチと一緒に洗濯層に放り込む。


とりあえずご時世がご時世だけに念入りに手を洗う。二度洗うのが良いらしい。この後はうがい‥‥


江崎君、もう家に着いた頃かな。私んちは駅から徒歩五分程度。。。まああれから電車乗って駅二つ行けばその間にはついているか。

ちゃんと帰って手洗っているかな?手を洗わないと今時ウィルスとか怖いんだからね。


はいはい、ちゃんと洗うの‥‥もう、洗うの下手なんだから。ほらほら私の手の中に手を置いて。はいはい、じゃあ、洗ってあげますね‥‥仕方ない人やなあ。

「ふ~ふ~ふん♪ふふ~ふふふ~ふふ~ふん♪」

つい半年程前からFMラジオでよくかかっていたラブバラードを思い出してメロディを口ずさむ。テレビが私の部屋にはないし、あの時は自分がみっともなすぎて最低限しか部屋の外には出なかったなあ。その時にスマホでラジオを良く聞いていた。

ほらほら‥‥君のそんなマニアックな曲ばっかり聞いてないで。この曲ステキでしょ。いいと思わない?私一番寂しい時、これヒットしててよく聞いていたんだ。一緒に聞こうよ、ね。だからあ‥‥こっち来てよ。


「お姉ちゃん?」

「お姉ちゃんとかやめて。アハハ、甘えたさんなのかな‥‥アハハ」

「あの、妹の阿須那なんだけど」

「いもうとのあすな‥‥阿須那、阿須那?え?ええ?」

トリップしていた頭が現実に戻された。

阿須那は脱衣場の引き戸から顔だけ出して、訝し気に眉を寄せて私のことを睨んでいた。

「お姉ちゃん、何かあったね?」

「な、な?」

言い訳を見つける前に引き戸を開けて、山のような洗濯物を持ち込み、ずんずんと私に歩みより、背の高い私に荒々しくパスする。

「ちょ‥‥ちょっと」

思わず全部キャッチしようとするが、パスが荒かったからいくつかの洗濯物が下に落ちたのと、後から気が付いたのだが、なぜかお父さんの使用済みパンツだけ受け取る瞬間に跳ねてしまい、私の頭に乗っかっていた。


ただ阿須那も満更嫌がらせだけで私に洗濯物の山をパスしてきたわけではなく、洗濯機を覗いて容量を確認し、ジェルボールを一つ放り込んだから、私から三分の二ほど受け取って同じく放り込む。後の分は床にでも置いておいて、だ。まあいつもこれから洗う分は床にべたっと置いてしまっているなあ。



蓋を閉めて、洗濯機に登録してあるコースを軽くリズミカルにポンポンポンと押して洗濯する。後は全自動。あまりの手の速さと、『何かあったね』の質問のせいで、ちょっと茫然としていたら、突然ニカッと笑顔で私の方を向き直った。

「お姉ちゃん?」

「はい」

なぜか敬語。

「男できた?」

「?!?!?!」


空想の中で、私は多分脳みそが爆発して頭頂部からバックドラフト現象が起きた。



何で分かるわけ?いや、ひょっとしたら分かられていないと思っているのは私だけなのか?それぐらい私は顔や態度に出ていて、デレデレなのか?いや、そんなことは何一つないはず!いや、大ありでしょう‥‥



とりあえず!とりあえず!

「あおおおお、男なんか、でででできてないよ」

どんだけ噛むんだ私。

頭に乗っているお父さんの使用済みパンツのことなどまったく、頭にあるが、頭になかった。

「あ、そっか」

「?!」

意外とすんなり引き下がった。私なりに二の手三の手を考えていたのに。。。

「じゃあ、、、いい友達ができたのかな?」

腕を後ろでに組んで私の瞳の奥を下から上目遣いで覗き込んでくるよう。

私とは全く性質の違う千里眼を持った妹。この目を逸らすのは実に大変なのだ。というか、躱せない。



「あ‥‥あ、そうそう友達友達‥‥友達はできた。うん、すごく良いひ‥‥やつだよ。ここ近年腐ったやつとしか出会ってなかったけど、やっと私も良い出会いがあったかな。うん、きっとそう」

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