笑えるほどに二人は一緒
帰りの一対型もびっくりものだった。
こうなったらあえて「どこまでついてくるの?」聞かなかった。江崎君も「マジかよ?まだ一緒なの?」って吹き出して笑うぐらいだった。
私と江崎君は、お互い、まだ降りないの?まだ降りないの?と笑いながら言いつつ、天王寺まで着いた。そして着いた途端二人で取り残されないように駅のプラットホームに降りた。
「えー??」
そう言って笑いあった。
「嘘でしょ?まだ一緒ですか?」
「まだ‥‥そうみたいです。僕も本当だからこっちの方向じゃないからあっち行きますとも言えません」
「そりゃあ、そうだけど」
ストーカーだなんて思ってはいない。むしろもっと居たい。本当はもっとどんな人なのか、何が好きなのか、どういう生い立ちなのか、食べ物はどんなものが好きか、運動は何をするのか、色々知りたい。何なら飲みに行くぐらいならこの天王寺でなら付き合ってもいい。地元に近いし、いざとなればここからなら歩いてでも帰れる。地元に近いから気も大きくなっているのかな‥‥あ~あくわばらくわばら‥‥
もうちょっと後ろの車両に乗っていれば良かったのだけど、割かし前の方に乗ってしまった。前だと上がると新宿ごちそうビルとかに出てしまう。自分の家路の路面電車からは遠いのだ。
どこまで一緒なのかなと江崎君の顔を見てしまう。江崎君もそんな私の目線に意識して、私を見てくる。そしてまた意味なく笑ってしまう。ちょっとした恋人気分?ヤバイヤバイ。。。そのヤバイが笑えてしまうようになってきていることがさらにヤバイ。
でも素直になってはいけない。男はいつも残念な結果しか与えてくれなかった。こんな簡単になびいてはいけない。
でも‥‥
車両の一番後ろにある階段を二人で登ってゆく。登った先は左、右とクランク角に曲がり、もう一度階段を上がる。そうすると改札だ。ICカードをセンサーに翳して抜ける。
さあ、これで今日はお別れでしょう。
ここからは無数に行先はある。右に曲がればJR、左に曲がれば近鉄。ちょっと行って曲がればまた別の地下鉄。でもなんとなくここまでくれば‥‥
「プッ‥‥」
「ええ?だって僕もまっすぐですもん」
さすがにちょっと困り顔で苦笑いをしている。その苦笑いでさえ、どことなく少し頼りない弟のような、揶揄いたいけど守ってあげたいような、それでいて柔らかい感情を抱けてしまうそんな表情に見えてきていた。けどその彫刻のようなイケメンぶりは健在で、私たちが笑顔で向き合っていると、近い世代の女子たちが口をぽかんとしているのが横目に見える。
二人並んで改札を出て‥‥そう、多くの可能性は右のJRか左の近鉄だっただろうと思う。けど私たちの運命とやらはあえて可能性の少ないところを突き抜けたいらしい。共に真っすぐ歩いたのだった。大型ショッピングモール方面、つまりは次の地下鉄もしくは路面電車。あるいはこの近所のタワーマンションの可能性もある。
でもこの改札を抜けたすぐのところ、気を付けなればならない。
なぜか‥‥ここは結構ナンパ師が立っているところだ。ここと上のJRの改札前。この二か所は天王寺の主なナンパスポットだ。どちらかというと近鉄方面に流れる方に声をかけてくる気がするが、私のように目立つ女子はどの方面でも関係なく声をかけられる。さらに言えば目立つ子はあえて声をかけないナンパ師もいる。
端から諦めている奴ら‥‥でもその代わりに、スカウトが声をかけてくるので結局一緒。そう、風俗店のスカウト連中も割と出没する。どっちにしろやり口はナンパと同じなので声をかけてきてひたすら絡んで来て面倒だ。ガン無視をし続けていれば良いのだが、その間の時間恥ずかしいのも嫌だ。
パッと見、立っていなくてもどこからともなく現れることもあるから油断できたもんじゃない。阿須那もここを通って帰るようになるから大丈夫だろうか。今日帰ったら注意しておこう。あんなのについて行って女としてのメリットは何もない。
でも今日は、ここを通り抜けるのは楽だ。だって江崎君が横にいるから‥‥
彼氏だと間違ってくれていたら、声はかけてこない。あいつら基本男連れには声はかけないから。
――――うーむ、こんな扱いしたら失礼かもしれないけど、夕方の時間帯、ナンパ師やスカウトを避けるのにいいかも‥‥ナンパ除け。これはこれで一緒に帰るの、ありがたいかもなあ。
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