喫茶店での勉強の後~電卓遊び~

江崎君は何も誘ってはこなかった。

そのまま二杯目の珈琲をごちそうになっていた。


組紐をいただいた後、私はますます恐縮してしまって、縮こまっていた。


ーーーーだって、色々もらいすぎ。。。それにその時はまだ、彼が何かしらの見返りを言ってくる可能性を消しきれなかった。大抵の男たちは来る。ひょっとしたら今日は外してもまた後日に来ることもある。そう、江崎君にはそんな人であって欲しくない。腹黒く仕掛けを作って嵌めてくるタイプであって欲しくない。


仮にもしそういう悪いタイプなら、きっと詐欺師クラスのプロに近いやつだ。すぐさま離れなければいけない。そんなことはないとは思うのだけど、、、先入観だけで見てはいけない。


大手を振って喜んではいられない気持ちもあって、余計に萎縮していた。

でもその反面私もまだまだ乙女なんだなと思うところもあった。

――――このキーホルダー何に使おうかな?今特にキーホルダーはちょうどお母さんからもらった一応高級ブランドのキーホルダーなんだけど、使い古されてボロボロになってて、ロゴとかも黒ずんで消えかかっているんだよね。これはちょうど良いタイミングだったと思う。けど待てよ?



私がこの色違いのキーホルダーをつけて持つということは、、、何かその所謂‥‥合鍵的な?彼の部屋の??既に同棲??

――――キャーッ!!こんな王子様級の男子と、私既に同棲していますってなるん??キャーッ!しかもこの鍵、彼がチラっとバッグから見えているときに、私も何気に机の上に隣の席で、しかも色違いで、置いちゃう??キャーッ!!

「大丈夫?」

「はいっ??」

私の妄想から引き戻された状況を分かってか分かっていないでか、「アハハ」と笑いを洩らした。多分私は何かしらオーバーなリアクションで大きな声で返事してしまった。



多分肩を縮こめてはいるんだけど、ずっと新しく彼がもう一杯買ってきてくれた温かい珈琲を飲まずに、じっとニヤニヤしながら見つめていた。

ちょっとアタオカな人になっていたかもしれない。

珈琲をまたごちそうしてくれたことは嬉しいに決まっている。それ以上に今日いっぱいしてくれたこと、彼が私に彼の家のお守りで手作りの組紐のストラップを私にくれて、それが色違いのお揃いで、これから持ち続けるということに、ニヤけてしまってニヤけてしまって。。。



「電卓で、今から言う数字を一度叩いてくれますか?」

「え?あ‥‥はい」

突然の彼の申し出だった。まだメモ的な損益計算書も貸借対照表も、テキストも電卓も出しっぱなしだったから何の問題もない。


「言いますね。一、二、三、四‥‥」

なんだなんだ?順番に入れているだけ?

「五、六、七、九」


五、六、七‥‥八飛ばしたけど、、、いいのかな?とりあえず、九。


「で、×ことの七」

×ことの七。


「×ことの九は?」

×ことの九は‥‥‥‥‥わわ!!



――――なにこれ?こんな並ぶ??

「ラッキーな気分でしょ?」

――――楽しい!

「はい、確かに」

答えは、七七七、七七七、七七七 だった。



えーなにこれ?面白い‥‥何かのバグ?


電卓も面白く思えてきた。何もあるわけないのになぜか電卓の裏側を見てしまう。


いやいや、滑り止めのゴムと斜めにできるプラスチックの折り畳み式の板があるだけ。別に裏がおかしいからこんな数字が出てくるとか、そんなわけないから。


電卓なんて、ちょっとお小遣いと自分の買いたいものが複数ある時に、果たして変えるかどうかを計算する時に、家にある間に合わせの古い小さなカード型のやつで計算したか、スマホで計算するか、だった。今はこの勉強をするために初めて十二ケタ計算できて、プラスマイナスの変換機能があるものを買った。



「一二三四五六七九に二かけて、九にしてください」

「‥‥今度は二、ですね」

「そうです」



言われた通りに指を動かして、出てきた答え。それは、ニニ二、ニニ二、ニニ二 だった。

これちょっと楽しい‥‥帰っても絶対遊びそう。



ちゃっかり復習中の気休めも教えてくれたみたいだった。後は阿須那にも見せてみよう。こまっちゃぐれた返答してくるかな‥‥素直にびっくりするかな。

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