私の繰越剰余愛はマイナスです

結局お隣が少女漫画の相手役男子ほどの男子、指先から見ていないけどつま先まできっとそんな男子、声は私の脳を揺らす良く通る低温ボイス、春のそよ風のように爽やかな笑顔を振りまいてくる、そんな男子の江崎君のせいで、いきなり授業はヤバいことになった。


オリエンテーションだけで午前中終わるのかなあと思いきや、もういきなり授業に入った。

その代わり他のクラスと一緒になってごった返さないように昼から一部だけ館内の案内をしてくれるそうだ。そりゃそうか。普通の高校や大学は想像だけなんだけど、それらと比べたら広さが全然ない。何棟もビルを所有しているように見えて、いわゆる高校の校舎のような大きな建物があるわけではない。ましてや大学などは巨大施設と言える。そんなのではない。中規模程度のテナントビルでしかない。エレベーターもここの中では二基しかない。そんな広くない施設の中で新入生が何人いるのか知らないけど、一気に動けばちょっとした館内交通渋滞になる。



授業‥‥いきなり本命の簿記から入った。カリキュラム見れば分かる話だったけど。


なんだこれ?


紗奈に感化されて本屋で一冊だけ立ち読みしていた時もそうだったけど、なんだこれ?だったけど、やっぱりなんだこれ?だった。

授業のスタートは簿記の歴史からだった。

ほとんど覚えていない。


ただやり方としては英米式決算方法と大陸式決算方法があって、主に英米式決算方法を学ぶそうだ。英米式決算方法と大陸式決算方法の違いは主に仕訳帳を介するかしないかの違いだそうだが、お小遣い帳すらつけたことがなかった。


で、それがなんやねん?てなると、また次から次へとあって、、、


何かしら仕入や、買い物、販売をする。企業や商売をしている前提なのだから。それを取引という。


取引が起こると、それを伝票に記載する。伝票と言えば高校時代に少しだけファミレスでバイトしたことがある。

バイト先って不思議な空気だなって思う。私以外にも結構飲食でバイトしている子多かったけど、そこの店長や副店長とできちゃう子、結構いてた。


私の働いていたところの店長も確実に私に近づいてきてたようには思うけど、あんまり興味なかったからそこはナッシング。スルーした。



けど確かにミスしたときのお客さんのフォローや現場の立て直し、その後のミスした子のケアとか見ていると、格好良いなあって思ったり、気持ちグラつく子はいると思う。



外でデートしている時にばったりあったら、「ようあんたそんなチンチクリンとイチャイチャしてるなあ」って思える。

まあ本人の自由なんだけど。あれは「自分を守ってくれた。自分をフォローしてくれた」それと「自分はこのバイトというフィールドの中でもっともプレミアムな人間に特別な感情を持って接してもらえている」という優越感がきっと恋へと洗脳していくんだと思う。




おっと、簿記の話から逸れていたわ。もういきなり「分からないよ」系な意識になりつつある。分からないなりにも言われたことを私なりの頭で変換して行く。間違っていたらごめんなさい。


とりあえず、伝票。

この伝票に何が売れたの?何を購入したの?という具体的なことがメモのように書かれてある。


それを仕訳日計表につけていく。そしてその集合体が仕訳帳。


次に仕訳帳だけ見ていてもたとえばレジにお金がいくらあるの?とか運転資金いくら残っているの?とか、商品の在庫はどのくらい残っているのとか、商売をやっていく上で重要なことは何も見えてこない。


ただ取引のエビデンスがいっぱいあるだけでしかない。


これらを総勘定元帳という三大主要簿の一つに、項目・勘定科目ごとに転記していく。


そうすると項目・勘定科目ごとに集計が取れて、残高が分かってくる。


だいたいこれらは今は手書きで行うことは無く、会計ソフトが伝票の画面で金額や勘定科目、摘要だけを入力すれば自動的に仕訳帳、総勘定元帳への転記は行われる。



また特に詳しく管理したいものってあるよね。こういうのは補助簿というある項目のみの状況把握のためだけの帳簿を作る。例えば商品在庫なんて「年度の始まりはこんだけで、年度の終わりはこれですわ」じゃあ話にならない。その都度幾らで仕入れて、その時の送料や保管料がいくらかかり、それらを在庫にコストとして転化して、販売するときにどれだけの商品が在庫から出て行き、どれだけ残って、また返品の可能性もあるから、戻りはどれだけ帰って来て、その中で使い物にならないものは廃棄するとしたら、廃棄で出る損はいくらで、などなど。



大好きな付き合いたての彼氏並みに動向が気になるはずだ。

――――私はあんまり気にしたことがないんだけど。長時間既読スルーも、かつてのクラスの女子たちが目に涙を溜めて訴えていた辛さが意味分からなかったっけ。



吉山先生の余談では二級・一級になると、工業簿記というのがあり、仕入の代表格として材料という科目が出てくる。


その材料の場合は管理がもっとシビアで送料や保管料、倉庫内での人件費やフォークリフトなどでの特殊な作業での出荷作業代、保険などもっと細かくなってきて、すぐに分かる分と後から分かる分に分かれる。そりゃあ現実問題そうだよね。


で、後からの分は材料コストに入れなかったり、あるいは見切りみたいな恰好で「こんだけでしょう」みたいな予想の金額を立てて仕入を行ってあとから実際の金額との違いを精査したりもするんだって。


なるほど、そんなことをしているのなら確かに経理事務ってお茶汲みじゃないね。昔の古いドラマがテレビで稀に、昼とかに再放送されて、その中で事務の何々さんて言ったらいっつも課長とか上役にお茶汲んでるイメージだったけど、そんなことしている暇は無さそうだし、今はあれはハラスメントだよね。



現金や預金とかめっちゃ気になるし。

そりゃあ補助簿いるわ。


私なんて親や、おじいちゃん・おばあちゃん、親戚一同から頂いた小さいころからのお年玉やお小遣いの蓄えが、全部予備校時代のくだらない男たちに消えて行って、しかも最後はありがとうどころか、逆にディスられて終わるという最悪な終わり方をしている。この現金出納帳、銀行勘定帳とやらを頭に張り付けておいたらもうちょっと冷静に考えられたかもしれない。



そして日々の仕訳が総勘定元帳や補助簿に転記されていくけど、絶対にミスが起きている。

きっと私なんかがやればミスだらけになっているはず。


それを発見して修正するのがトライアルバランス、試算表というんだって。略してT/B。


この後先生はこの略で書くらしいので覚えておかないと。決算時に作成されたり、その営業月の締め日で作られたりするらしい。


この辺に来るとあんまりリアリティがないなあ。


それから決算手続き。


私にしたら決算とは「大売出しで忙しい時」ぐらいにしか思っていなかった。年がら年中「決算大売出し」と書いている電気屋とか、同様に「閉店セール」と書いてある靴屋とかが商店街にあるから、それぐらいでしか知識がない。


あとはお父さんがお母さんと話している時に「今期決算がうまくいきそうだから臨時ボーナス出るよ」とか、「今期は赤字だから、ボーナス減るかもなあ」とか、そんな程度。。。



試算表、その名の通り、試しで『今年どんな感じ?』な表を作ってみて、これ何か良く分からないんだけど『決算整理』とかいうのをやって‥‥多分なんか数字のおかしいのを整えて行くのかな?整理とか言ってるし。そして精算表というのを作成する。


簿記三級はこの精算表作りが試験に出やすいらしい。

私たちはこの精算表を理解して六月の試験に受かることが一番の課題ね。


三級に受かれば、とりあえずは簿記ができる人ということで採用のプラスにはなるみたいだが、大きく評価してくれるかどうかはやはり二級らしい。二級をとれば経理事務としての採用担当者の評価はグンと上がり、簿記や経理ができる人、つまりはその会社の会計を将来的には任せられる人という印象を得れる。


紗奈が三級か二級かは聞けていないんだけど、あの子は大阪府下で一番賢い商業高校出身というのもあるからたとえ三級であっても強みがある。


じゃあ私はやはり二級を取らないといけないということだ。既にヤバそうなんですけど‥‥


精算表ができたら、次に損益計算書と貸借対照表を作成。もうあんまり分からないけど、会社がどれだけ儲けたかということを理解し、次期に繰り越せる財産はどれだけあるの、というのを出資者である株主たちにアピールするんだって。



この時、私は会社というのは社長が作ったと思っていた。まあ確かにそうなんだけど。でも株式会社ってそもそも何?って話になる。


私の頭の中では、私がお金を出して、私が商売を始める。で、私が儲かれば『よっしゃ!』て評価で、私が損すれば『ダメじゃん』て評価。全部私がする。でも株式会社はそうではなくて、株というものを買ってもらう‥‥というか超簡単に言えば「私こんな会社しますので、お金を出してください」って言うらしい。


ようそんなこと言うなあって思うわ。

けど現実にそういうことらしい。


で、信用してくれた人たちがお金を出す、その代わりに株券を発行して渡す。会社が儲かれば株価が上がり、上がった時にその株券を売れば儲かる。また配当というのがあって、株を持っているだけでお金がもらえたりするものもあるらしい。


なるほどなるほど‥‥私なりにだいぶ歪んだ解釈をすればこういうことかな。




男を調達してきました。この地点でだいぶ違うんですけど。

この男、私の会社内では、『楽しませてくれる』『将来の期待がある』『頼り甲斐がある』等が諸収益。それに対して『浮気した』『遊び目的だった』『お金返してくれない』『犯罪に巻き込まれそうになった』『よってお別れした』が諸費用だったとして、私なりの損益計算書を作成したら‥‥




大赤字やん。




というか、収益ゼロの費用のみやわ。しかも多分これ、費用勘定にしたら「廃棄損」のみやん。



ゴミやん。このゴミ野郎共!



そりゃこりゃ‥‥リアル財布空っけつになるわ。

落ち込んだ。。。簿記でこんな分析できるだなんて(できません)。



「このクソが~~!」と立ち上がって喚きたくなり、目の前が歪んで見えてきた。最近打たれ弱くなったのか涙脆い。



で、これを株主‥‥お父さん、お母さん、阿須那に見せると。

「このたわけがー!!」

しかない。誰でもそうなるわ。

そして信用なくなるわ。


繰越せる剰余愛はマイナス。これがマイナスということは人間不信を表します。きっと。

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