予備校時代のゴミ男たち

悪いと言えば、予備校に行ってから日頃の勉強の辛さから逃げるように、癒しを求めるように付き合い出した男たちだ。


さっきも電車の中で思っていたことなんだけど、違和感。


違和感があった。


高校卒業してぐらいから、私の主観なんだけど‥‥明らかに、


男のレベルが下がった。


私の周りに現れる、私を口説きにくる男、私が「じゃあまあこの辺りで手打ちましょうか(今晩ついて行ってあげましょうか)」となる男のレベルが低くなった気がした。



低いのを狙って選んでいたつもりはない。感覚がおかしくなったようにも思えない。ただ、寄ってくる男が、低くてヤバくなった。



この違和感は私はすごく敏感に感じ取った。当時一緒に遊んでた女友達は、「この低さが楽しい」「このヤバさがないと男を感じない」「普通の男はつまんない」といった感じで、好んでそいつらと一緒につるんでたけど、私は普通に、

――――あかんやん。

やった。


きっと素の私は臆病ですぐに逃げる気質。それと朝食時お父さんと阿須那の会話でもあったように、お父さんとお母さんがその時々の私達に、分かる言葉で簡単に、だけど伝わる内容で優しく、時に厳しく、情操教育をしてくれていて、その感覚がどこか根強く残っていたんだと思う。だから何となく、スクールカーストという一時的な価値観に流されつつも、これ以上は絶対にあかん。これは怖すぎる、やってはいけない!という感覚が、私なりにしっかりあったと思う。



0.5人目、飲酒強要?

これはさっき阿須奈と登校途中に話したやつだ。良い大学に通っているとはいえ、こいつのモラルは欠如していたと思う。ヤリモクと認定されたため、カウント一とすることは控えさせてもらう。



一人目、マルチ。

ストレス発散代わりにやったマッチングアプリで知り合った男。


『この権利をまずこんだけのお金で買うやんかあ。そしてこれを亜香里が三人の人間に勧めるねん、そして権利を買ってもらえたらロイヤリティがこれだけ発生する。その人らがまた三人ずつ連れて来たら、また亜香里はこれだけのロイヤリティが発生する。これは素晴らしいプログラムやで。友達も増えてお金も増えて豊かになれる。世の中にまだそんな普及していないから今のうちに買わないといけない。今は権利ビジネスの段階だから。親に聞く?そんなんあかんあかん。親世代らはな、苦労して汗水たらして死ぬまで借金背負って生きていくことが美徳とされたんや。住宅ローン何年抱えてる?それに比べたら権利ビジネス、これは寝ている間でもお金が入ってくるすごいビジネスやねんで。こんなビジネス他にないって。この商品が売れだしたら飛ぶように売れていき、たちまち権利の値段は高騰する。その時に売ったとしても一生贅沢に海外のリゾート地で暮らしていけるだけのお金がきっと入る。ねえ、亜香里、だから一緒にやろう。創設者メンバーに入って権利を獲得しようぜ。今関東ではこれを大量生産するために地下何百メートルのところで生産体制構築をほら、こんな感じで(どこぞの炭鉱労働の写真。しかも写っている人らが日本人とは思えない顔の濃さ)やってるんだよ。だからさ、亜香里やろうぜ!』


私にはただの水道水にしか思えないんだけど、この水‥‥それを百均にでも売ってそうな小瓶に入れて小学生が喜びそうなリボンをつけて、豊かになりましょう!と書かれてあるメッセージカードを添えて‥‥


そいつとはその時に終わった。


それから二年経ってもあの商品は世に出ない代わりに、最近ネットやSNS上で今ヤバいポンジスキームの一つ、の中にその商品の名前と代表と、派手な夜の遊びっぷりが晒されていた。時間の問題とも書かれてあったなあ。

こいつは幸いにも金の貸し借りはなかった。



二人目、銅線泥棒

こいつはもう今はブロックしてつながりを持っていない高校の時の同級生(他にもブロック多数で、スマホの中の電話番号八割はブロック)、竹村美玖のつながり。美玖は高校卒業後、アパレルショップスタッフになったが二ヶ月ほどでやめてぶらぶらしていた。


私も予備校が面白くなくて通ってはいるものの、通っているだけみたいな感じだった。


で、高校の時はそれぞれ違うグループで一緒に遊んではいなかったが、彼女からたまたま連絡があって遊びだすようになった。

学校内では何となく顔色が悪く、素行も悪い少人数のグループで、あまり評判も良くなかったけど、私とはまあまあ学校内では話したりしていて、そんなに悪い印象はなかったから一緒に遊ぶことにそこまでの抵抗はなかった。


男はその美玖からの紹介だった。彼の印象は、トークはおもしろくてテンポが良く、とにかくやんちゃで茶目っ気があって可愛い感じがした。


そこそこ良い身体をしていてヒゲの似合う男だったけど、付き合った頃から難アリ。


肩らへんや、背中にタトゥーが入ってて、そのくせ金が無い。


合えば抱き合った後に、『金貸して。金貸して』ばっかり。理由は多岐に渡る。デートに行った居酒屋の飲み代から、生活費、家賃の一部、親の介護やら、友達の女がチョンボした?みたいな話などなど。


結局二十万ほど貸して返ってこなかった。


最後は返せ返せ連呼したら暴力をチラつかせてきたので、警察に行くと言い返した。


そしたら今度組織がどうのこうの言うから私も負けてなくて、警察で聞くわと言ったら、こんな仕事があるから一緒にやらへんか?と言ってきた。それが、銅線泥棒。


誰がやるか!と断ったら、後日『あなたには大変傷つけられました。お別れします』とメッセージだけ来た。


いや、金返せって。

一ヶ月ぐらい後に新聞のネット記事で小さく逮捕されていたことが分かった。

貸付金:二〇ハ,四〇〇円




怪しい風俗街を抜けて、再び二車線ずつと歩道もある大通りへ。なのに車通りはほとんどない。どうやらまだ道が出来きっていないらしく、東側はすぐに行き詰まっている。しかし、ここに私が通う専門学校はあり、本館、記念館、一号館〜五号館まであったはず。今日行くのは確か‥‥


入学時の案内用紙をスマホに撮影していたので、そのデータを見直してみる。


回想しているといつの間にか、彼の姿はもう見えなくなっていた。まあもう‥‥それでいいんだと思う。彼はどんな過去があるのかは知らないけど、ちょっと話しただけでキラキラオーラが溢れる、春の日差しのように優しく、夏の太陽のような存在感を持ち、秋の紅葉のようにその色合いの美しさで人々の心を感動させて、冬のズワイガニのようにぷりっぷりの甘い身で‥‥いやいや、最後の表現は適切ではないわね。


そんな人が私みたいなヨゴレと、釣り合うわけがないやん。

ええっと‥‥四号館か。


四号館は確かこの人気のあまりない、車通りもない大通りと、普通の大通りの門‥‥門‥‥あれだ。あれ‥‥?

あれ?彼がいた。

そちらの門に向かって歩いていた。


嘘?まさか、ひょっとして?


ひょっとしてが浮かんだ。彼もまた、ここの専門学校生なんじゃないかって。そうだとしたらあの格好は自然である。爽やかで、けばけばしさのない美しくこの上ないほど絵になる学生だ。


でもここは日本を代表する専門学校。色んなコースが存在して、在校生も中規模クラスの高校並みにいる。仮に一緒の四号館であったとしても、コースは一緒である可能性は皆無。

そうなると会うことはおそらく今日の今ぐらいで、もう後はたまにすれ違い様に見かける程度になるだろう。覚えてくれていたら挨拶するぐらいの関係にはなるかもしれない。

そうだよね、そう。そんなにうまく行くはずないよ。いやいや、うまくってなにがうまくよ。


挨拶できたってそれ以外はきっと何もできないし、遠目できれいなものを眺めていることぐらいしかできない。自分がなんぼのもんかぐらいもう私は理解している。そんな私が近づいてベラベラ話をするだなんて烏滸がましい。


だいたい、一緒のコースなんてありえないって、心配しなくても。


ないない、ないない。

なのに、なぜか私の歩みは少し早くなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る