ナンパではないですね

おや、新大阪だけど‥‥降りる気配がない。

あそこから乗ってきてこれらの主要駅で降りないのなら‥‥ビジネス街からの多分この先中小規模の繁華街はあるけれど、他はベッドダウンになっていくはず。。。夜勤明けかな?

何をさっきから逐一気にしてしまっているんだろう。

明らかにちょっとおかしい自分が居る。

イケメン効果って私には関係ないって思っていたけど、ここまでくるとやっぱり結構来るのかな。


予備校に入り、すぐに自分の根拠のない自信は打ち砕かれた。志望校に合わせたカリキュラムで勉強し、基礎から直せると聞いていたけど、私はもはやそれ以下だったようだ。暗記だけで済む勉強ならまだ根性で何とかなるのだが、積み重ねが大事な科目となるといったいいつまで遡らないといけないの?という事態になっていた。

現実を突きつけられた。


stop toとstoppingの違いすら分からない(するために止まると、することをやめる)

積み重ねが大事‥‥当たり前な話である。


私は小学校の時、あまり勉強しなくても成績が上位だったからきっと少し勉強したら追いつける。考え違いだった。小学校高学年になる前までにきっちりと積み重ねたものがあったからその先は惰力で進めただけの話だった。この年、この瞬間になってやっと分かった。


それでも負けたくなかった。せめてAランク大学は無理でもそれに準じたところに合格して、あの同窓会の輪の中に戻りたいんだって思っていたのに。。。

男と遊ぶことに逃げた。

勉強がつまらなさすぎて、ストレスが溜まりに溜まりまくってつい。。。

結局私の流れ先はそんなところだ。

流れついた先に幸せがあるならば問題はない。

しかし、これぐらいの時から、自分に近づいてくる男の質感に、ある違和感を感じ始めていた。


あ、次の駅だ。

念のために交通ICカードがすぐ出せるところにあるか確認する。改札でもたつきたくない。

‥‥よしよし、すぐ出せる。バッグは二個持ち。一つはどうせ教科書や資料類が今日は多くなると見越して強めで大き目の布地のバッグ。その気になればグルグルに縮めてもうひとつのバッグの中にでも入らないことはないものを。もう一つは貴重品が入っている小さすぎず大きすぎず、A4 サイズのファイル一つなら横向きですっぽり入るほどのナイロン製のバッグできている。これぐらいでもいざICカードを入れている定期入れを探そうと思ったら、なかなか見当たらない時もあるから。



今は地下ではなくて地上バイパスや自動車専用道路の高さを並走して走っている。今時これくらいの高さで見晴らしが良いわけではないが、悪くもない。近代的建築で瀟洒なタワーマンション、それに比べて少し時代の流れを感じさせるテナントオフィスビルが所せましと天に向かいそびえ立ち、消費者金融の看板や、大手ジェネリック医薬品の看板、ネットカフェの横長帯看板、自動車ディーラーの看板などがあちこちに見える。縦長だったり、横長だったり丸かったり、赤かったり、青かったり、黄色だったり‥‥とバラエティに富んでいる。そういえばここもなかなかの繁華街だったね。


電車に乗り、椅子に座った際に思うことなんだけど、そろそろ立ち上がろうかなあと思ったときに前に、真ん前に人が居たらみんなどうするのかな?何となく気を使いながら様子を見ながら立つのかな。私は身体が大きいからお年寄りとかだと余計に気になる。逆に今日みたいに大きい相手でも、こう‥‥立ってすぐに身体をくねらせて?あるいは懐に潜るようにして?とか考えてしまう。

ましてや王子様級のイケメンとなると粗相は厳罰。


あれ?彼も降りるの?


彼は少し目にかかりすぎるぐらいの前髪を頭を振って軽くして、電車の自動ドアの前に立った。私の目の前はガランと大きく空き、比較的大柄の私でも何の問題もなく立ち上がれた。

電車は滑りこむようにプラットホームに入り、速度を緩めて行く。そしてやがて完全停車。圧縮されたエアが抜けるような音とともに自動ドアが開かれた。

再び未来への扉が開いた。

そう思っておこう。


降車する人々はこの駅もかなり多い。しかし高校の時みたいに同じ制服の、そこの学校の子と分かる群れが二列になってゾロゾロ降りるというのではなく、スーツ姿の人たちも私服姿の専門学校生であろう人たちも統一性のない様相で改札へと歩いていく。それにこの時間帯で大手専門学校があるからと言って学生ラッシュという気配があまり感じられない。大手予備校時代の方がまだたくさん、そこの生徒だねって分かる気がしたぐらいなのに。


何となく改札へと向かう流れに乗り、歩いていく。少しだけ離れて私の前方に、一発で分かるあの長身の彼が姿勢正しく背筋をピンと伸ばして歩いている。

あれはやっぱモデルだな。佇まいが違うわ。

あ~あ、もう少しで永遠のお別れか。きっと男子で慣れたやつらになったら適当に何か理由をこじつけて連絡先を聞き出そうとするんだろうなあ。私が何度もあったから分かる。


ナンパってやつね。


それから知り合った男もいたけど、ワンナイトが多い。いけて後もう一回。まぐれぐらいでその後一泊二日ぐらいの旅行に行って終わりかな。だから知り合ったぐらいで付き合ったとは言えない。


(私が知っている)あいつらは、仲間やグループが実はあって、めちゃくちゃ縦社会なんだ。そして『即』とか『準即』『連れ出し』『バンゲ』とか言い合っている。できないやつは『地蔵』って言われてしまう(女を前にして固まって動けない人のこと)。まったく男っていちいちそういうことで競い合っている。くだらない競争心の塊みたいで、その裏側には自分への何かしらのコンプレックスや過去に受けた男友達からの裏切りや先輩後輩の縦社会から来る理不尽なパワーハラスメントのトラウマが心の中にあって、歪んだ原動力になっていたりする。相手の女のことなんてまったく眼中にない。だから好きの気持ちも愛もない。ただの獲物と狩猟本能。せいぜい剥製にするかわりに写真撮られるぐらい。私は絶対写真は撮らせなかったけどね。そりゃあ長続きするわけなんてないよね。ナンパ師ってだいたいお喋りが多いからすぐに種明かししてくれたわ。それからはついていかないし、連絡先も教えないようにした。


うん、何か落ちたよ‥‥?


王子様級イケメンがポケットから定期入れを出した瞬間に何かが落ちた。

ちなみにこういうナンパの仕方をしてくるやつもいる。どうでもいいようなハンカチをわざと落として拾わせて、女から声をかけさせて形成を逆転させるパターンだ。親切に拾いものすら出来ない世の中だね。

でも彼は確実に違う。

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