歴然と差の開きを感じた寂しい同窓会

梅田を通り過ぎたが、彼は一向に降りる気配はない。

ここから先は椅子に座れる確率は格段に上がる。今も少し座面がチラホラ見えている。

でもどうかな?どうしてもしんどい時は勇気を出して「座らせてください!」な気持ちで座っていかないと座れないかな。微妙なスペース感があちらこちらにある。彼もそのようなところには座りたくないみたいだ。私の前でじっとしている。


きっと新大阪だな。あそこから東京に行くんだきっと。それか新大阪も雑居ビルが多いところだから、あの中のどこかにモデル事務所があって、そこに行くんだきっと。新大阪だったらどこにでもスッと行けるもんね。


その後の高校生活は、自堕落なものこの上なし。勉強するよりは髪を緩く巻いてみたり、あとはその時々の自分に合った友達と男友達と遊んだりを夜も昼もなく繰り返していた。ネイルはあまりしなかった。していた時期もあったけど基本的には家事が割と好きで、爪の間に色々詰まるのが気持ち悪かったからしなかった。そこは案外つるんで遊んでいた悪い友達に比べたら、普通に切り揃えて化粧っ気もなかった。

そりゃあ成績は下がるって。何かもう『今は下がってもいいや』って思っていた。気が付けば学内で、下の下の成績になっていた。スクールカーストは相変わらず、私と付き合っていたグループや私自身の身体的特徴や、運動神経が良いこと、絶えず表面だけは、そこそこの彼氏がいることなどで影響を及ぼさず、学校内では相変わらず良い塩梅なぬるま湯に浸かってた。


それなのに、自分の中で変なポリシーと根拠のない自信だけがあった。


Aクラスの大学はもういけないだろうけど、それに準ずる大学に行かないと意味がない。後は行ってもどうせくだらなく意味のない時間を過ごすだけできっと中退してしまう。

これは私が小学生の時にあまり勉強をしなくても、成績上位者と肩を並べていたため、その当時の自尊心の破片である。


きっと本気で勉強したら普通の人の半分ぐらいの時間で私は賢くなって、また小学校高学年時代のような賢い自分に戻れると、何も根拠がないのにそう信じていた。

とりあえず、担任の先生が止めろというのを聞かずに、受かるはずのないレベルの大学を受けまくり、案の定全部落ちた。『それも想定内』と強がり、予備校に行くことにした。予備校に行ってもう一度組み立て直せば、Aランク大学も夢じゃない。そう信じていた。


そして卒業した時、私はようやく上手く泳ぎ続けてきたスクールカーストから解放されたと同時に、『いつか雷をおとしてやるから見てろよおまえら!』と息まくけど、社会の大きな流れから逸れた行く宛もない、どんどん姿が薄くなっていく千切れ雲になってしまった。そう、予備校生という有利なのか不利なのか、何ともどっちつかずな社会カーストの属性。



ひたすら走り続ける電車の車窓は、漆黒の闇から薄っすら灯りが差し込み、ああ、闇が終わる、と自分の夢ごとのように思っていれば、あっという間に光に包まれ、地上に出た。昔は工場が並ぶ下町だったところは、今は億を超える値段のタワーマンションが立ち並ぶ大阪有数のハイソタウンに変わって行っている。そして大阪一の大きな川に差し掛かった。


一年目の予備校が決まったぐらいの時に、小学校五年、六年生当時の同窓会があった。この同窓会には色んな意味合いがあった気がする。


一、みんな元気?

小学校五年、六年時の友達らは凄く良い子だったし、臭いセリフだけど「友情」や「団結」を感じることが日常生活の中にたくさんあった。学びも多かった。先生も良かった。しかも学年で二番目に学習能力の高いクラスだと言われていた。その牽引役の一部を私が担っていた。また淡い恋もあったように思うけど、告白や付き合うなんてところには至らなかった。至らなかったから良かったじゃないか。今となっては懐かしい話よ。


二、いい男(女)になった?

これ重要。実は集団合コンの要素が強かった。それはなんとなく私は呼ばれた瞬間に感じていた。みんな大人になって女子たちはきっと競うようにきれいになって、あるいは男子は格好良くなっているだろうし、楽しみで仕方なかった。予想は的中。着飾った女子たちは男子を物色。大学は何処に行ってる?将来はどんなふうになりそう?お金持ちになれそう?エリートになれそう?タワマン買えそう?そういう女の野心めいたものもたくさん散見していた。男子はあまり気を使ったような格好をしている子はいなかったのに対して、女子は五人に一人は笑えるぐらいにバリバリのビキビキのピカピカだった。

はい、私はその中の一人でした。

しかもやりすぎてしまっていた。

自分がおそらく輪の中に入れば底辺近くの存在になってしまっているのでは?と思えば着飾ることがばかり入念だった。わざと胸元がブイの字に開いたカットソーに、スリットが太ももまで入った黒のタイトスカート。男子たちからの評価は私と、黒瀬千景、藤森陽奈が「キャバ嬢」だった。あちこちから「ご指名です!」最初は忙しかった。


三、かつての同レベルの女子はどうしているか?

かつての仲間はライバルであり、今はどうしているのか?それを知りたかった。

知らない方が良かった。

有名国立大学、有名私立大学に現役合格した子たちが、わんさかといた。あるいは有名私立高校からの特別推薦枠で論述だけで大学に行った子や、大学付属の高校に通っていたため内部のエスカレーター式で大学に行った子たちがほとんど。Aクラスは無理でもその次のクラスぐらいなら私だって!!なんて息巻いている子なんていなかった。


寂しかった。悔しかった。歴然と差を見せつけられた。中学時代は正直あまりパッとしない、冴えない子たちが私を追い越して輝き出していた。この中でおそらく私が秀でているのは、男性経験だけだった。あとは運動神経。この場において私の内なる輝くものは何も役に立たないじゃないか!!


だんだん卑屈になっていき、何かと斜に構えて、喋りかけてくる男子を次から次へと見下し、非モテぶりをこき下ろして行った。そんなことしたくなかったのに。いつもこういう場に出向けば、必ず男の一人や二人は自然と釣ってくる私だったが、このときばかりは最後は誰も近づかなくなってしまった。


一人だけ、中杉紗奈だけはちょっと違っていた。紗奈は小学校時代、私たちが所属していたグループにいたけど、その中でも地味な子だった。誰かがワッとネタを出せば、それにツッコミを入れる。複数名が笑ったり、さらなるツッコミを入れる横で、遅れてクスッと笑う、そんな子だった。同窓会に来てもあまり目立つことはなく、喋らないわけではなかったけど、わいわいと騒いでいる中心からは遠く離れていた。もちろん着飾りもしていないし、すっぴんで部屋着に近いような格好で来ていた。最後の方、つまらなくなってきた私は何気に紗奈のところに行って話をした。紗奈は家の都合で大学には行かず、高校卒業後に就職が決まっていた。大阪最難関の商業高校卒業で、学内で簿記の資格を取得できたらしいので就職先は誰しもが知っている大手企業の経理事務として決まっていた。しかも退職金が普通に務める子たちより大学四年分、会社勤めをするのだから多い。大手の四年分の退職金はなかなかだそうだ。

手堅く人生を決めていた。

私みたいに『やったんで〜!』だけじゃなかった。そして私のやったんで〜!なんて極めていい加減なもの。小学校の時にあまり勉強しないでも賢かったから、きっとちょっと勉強したらまたできるようになる。根拠のない自信だけだった。後ほどこの根拠もない自信はあっさりと幻想に変わった。


帰ってからも、紗奈、簿記、紗奈、簿記、大手企業、経理事務、紗奈、簿記‥‥

ベッドで寝転がりながら言葉が脳に焼き付いて、何度も何度も浮かんでは消えた。


ちなみにもうすぐ、中学時代の私たちの学年全体同窓会がある。私は断ろうかと思ったけど、主催者から強く誘われちゃったので行くことにした。しかし前の小学校の時みたいなことにはなりたくないから、隅の方でそっとしていよう。もし紗奈が来ていたら横にいよう。でもあの子は多分中学の同窓会にはキャラ的に来ないだろうなあ‥‥


――――――――――――

中津あたりはすっかり景色が変わりましたね。昔は中小企業、工場街、商店街の下町だったのですが、今はタワマンがたくさん建っています。

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