私のやらかしたブーメランが妹を襲う

とにかく、高校に入ってからもそんな感じで、男たちと付き合っては別れて付き合っては別れてを繰り返していた。

野球部のエースの彼‥‥どうしたのかって?

うん‥‥半年ほどで別れた。


違う学校に行ったんだ。彼は野球の推薦がかかって強豪校に行った。中三で全国大会を逃して引退した後は、今までなかなか一緒に遊べなかった、溜まっていた鬱憤を晴らすべく遊びまくった。行ってみようと計画してずっとずっと行けなかったところとか、逆に行く宛もないけど自転車で無意味に遠出したり、勿論二人で抱き合って過ごしたりと、彼が現役時代にできなかったことをして楽しみまくった。思いつく限りのエッチなこともした。ほどなく成績はまたもや下降。受験前なのに‥‥それでも何とか学力キープしながらやっていたように思う。というのは彼も強豪校に行くとあって、遊びまくったとはいえ、前と比較したら遊びまくりなだけで、やはり自主練は絶えず怠らずやっていた。その間に私は勉強をしていた。そんなことで何とか中の下ぐらいの高校にどうにか合格。無事格好ついた形で中学を卒業した。


会う時間は前より少なくなった。彼は寮生活になったので、会うとしたら土曜日の夜遅くか、日曜日の午前中から昼にかけてぐらい。その時間も練習や試合が入ったりすると何週間も連続で会えないとかもあった。それと、彼の顔つきの変化や、もっていた「できる雰囲気」がどんどん小さくなって行ってしまってたのが嫌だった。

彼は三年で引退した後、強豪校でもないうちの中学から珍しく推薦がかかった生徒。野球部の中ではエリート中のエリートだった。練習を見に行けば後輩たちが私にまで帽子を取り、挨拶。彼は片手を挙げて『よぅ』ってなもん。パイプ椅子は私の分まで用意してくれて彼の隣の席に座らせてくれた。彼は私が分からないなりにこういう時はこう、ああいう時はこうで、と説明してくれた。その時私たちに『お茶買ってきましょうか?』と後輩君から訊かれた。彼は千円をスッと財布から出して『こいつの分もやぞ』と言った。

びっくりするような大きな声で『はい!!』と言った後、千円を受け取った後輩君は、ものすごいダッシュで自販機に向かって消えていった。


いわゆるパシリだ。

特別感があった。

いいのかなあ‥‥と思う反面、いけないと思いつつも彼と同列に私がいるような錯覚をしだした。


そんなことが部活内外でもあり、普通のお昼休みでも彼が後輩君を見かけたら、あれ買ってきて、あれ取ってきて、部室にあったあれこっちに持ってきてとパシリによく使っていた。そのうち私にも『あいつにこれやって頼んでおいて』とか『あいつに明日これコンビニで買っとけって言っといて』と言ってくることもあった。だんだんそう言うもんだ、これが普通だという気になってきた。一度こんなことがあった。お昼たまたま彼と二人お弁当もなくて、購買部で人気のあった『海老カツサンド』を彼の分と二つ買ってきてと頼んだ。しかし後輩君は間違えて『厚切りとんかつサンド』を二つ買ってきてしまった。今から思えば思い上がっていたんだと思う。昼食時の購買部は人がごった返す。パンを取るのも急ぐと後ろから前の生徒の身体を抜けて手だけ伸ばすような状態になる時もある。ましてや私や先輩である彼のパシリならスピードを要求される。彼はきっと慌てていたのだ。そんなこと微塵も理解を示さず、私は、

「アンタ、鈍臭いね!」

と言い放ち、睨みつけてしまった。

「すみません!!」

と大声で謝り、頭を下げてくれたのに私は無視して、近くにいる彼のところに『あの子、こんなん買ってきたわ』と呆れながら渡した。彼は私がキレたのを見て、笑っていた。後輩に特に咎めることもなかった。


高校になってからきっと中学校三年の時のように彼は活躍している、そんな勘違いをしていた。そんなわけない。なのにそう思い込んでいた。行ってみたらガッカリした。四六時中とんぼを持ってグラウンド整備、雑用全般。たまにバッティングをさせてもらえたかと思えば良いアタリは一つもない。ピッチャーとしてなど一度も使ってもらえているところを見たことがない。その内、監督かコーチらしき人からの激昂を受け、段々と顔が青ざめて行き、萎縮していってるのが目に見えて分かった。

会えば常にしんどそうにして、影を作り、泣き言をブツブツと言い続ける。


その時私にあった感情は、面倒くさい。ダサい。情けない。格好悪い。辛気臭い。あの時の輝きはどこ行ったんやろ?聞いているだけでも鬱陶しくなってくる。というようなものばかりだった。


私は中学校の野球部のエースとしてずば抜けた才能を誇示し、後輩を従えて王者ぶっている彼が好きだっただけで、一年の一兵卒、雑魚キャラで泣き言ばかり言っている彼を受け入れる優しさは私にはなかった。程なくして逃げるように一方的に私から別れを告げた。



その年の冬、阿須那が号泣しながら帰ってきたことがあった。何事かと思えば、その怒りと悔しさと感じた恐怖の矛先は全部私に向けられた。


パシリに使っていた後輩君が、阿須那を恫喝した。


「ワレとこの姉貴よ!〇〇先輩と付き合ってるからって、俺にこんなこと(カツサンドのことや、私用でパシらせたこと)させとったんじゃ!!分かっとんか??こらッ!!」

そう言って机を阿須那の前で激しく叩いたそうだ。


「もう〇〇先輩は野球辞めているから、こっちは関係ないんや!!調子乗っとったらいつでもイッてもうたる言うとけ!!」


私はそれを聞いてムカついて、元彼に電話しようとしたが、手が止まった。


もう彼は、野球を辞めていると言っていた。そして私とは別れている。ひょっとしたら電話して、後輩君の暴言を謝罪させることができたのかもしれないけど、その可能性は無いに等しいと悟った。それよりもむしろ復縁を迫られたり、また泣き言を永遠と聞かされて肝心の阿須那への謝罪はないという最悪な事態しか想像できなかった。となると、自分が後輩君を締めるしかないが、そんなことはできない。

その時知った。


後輩君をパシリに使えたのは、彼のあの当時の実力であって、私の実力じゃない。それを勘違いしていた。何も私にはできない。それが実態。阿須那には申し訳なかった。謝るしかなかった。幸いにもその後後輩君がまた阿須那をイジメたり傷つけたりすることはなかった。

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