自分史上最高の美男子

多くのビジネス街やオフィスビルが立ち並ぶ有名駅に着いた。私はまだずっと先の駅で降りるので関係ないのだけど、乗っている人たちの六割ほどは降りていき乗り込んでくる人々は三割ほどである。しかもほとんどはスーツを来た人たち。学生服の子たちや、私服の学生はここから乗ってくることはない、そんな街・・・・


あれ?


私の前の吊革に一人の男子が立った。長身で百八十以上はゆうにあると思う。細身の体を白いオックスフォードシャツに包み、黒いチノパンを履いている長い足。ラフでどこにでもありそうなファッションなんだけど、どことなく品のようなものを感じる。黒い大きなレザーのトートバックを肩からかけている。とてもビジネスマンには見えない。最近こういう格好のワークスタイルは流行りだとはいえ、まだまだレアだとは思うから。


あんまり顔を見るのもなあ・・・・男はもう興味ないし、なんか品定めでもしているみたいで・・・・

はい、見てしまった。


自分史上一番のイケメンだと一瞬で判定できるぐらい、美しい顔だった。

イケメンというかそんな言葉が張り裂けてしまうぐらい‥‥‥‥‥美しいのだ。

どうしてもつり革を持って電車に揺られるといくら姿勢の良い人でも少し猫背気味になるように思う。彼もご多分に漏れずそうだった。少しうつむき加減で影ができた顔は、ボブカットのようで前髪が長い。その髪の間から見える、切れ長の目も筋の通った鼻も、少し薄めの唇も、吹き出物一つ無い健康的な素肌も、熟練した職人でかつ芸術家が丹精込めて作り上げた作品とでも言えるぐらいのフェイスラインと顎の雰囲気。私を感嘆させる要素がてんこ盛りだった。


こ‥‥こんな男の人、いるんだ。


確かもうちょっといけば梅田。そのあたりには芸能事務所やモデル事務所もあるだろう。そういうところの人かなあ。

「?」

「!」

目が合った!

慌てることなくしれっと違う方を見る。

少しわかる程度の息を吐いて、怠げにし、あなたになんて全く興味ないから、と装う。


こんな美男子‥‥興味ない女の子なんてきっといないと思うわ。


私は先程から話している通り、かなりの男を見てきたつもりだ。そしてその尺度は顔はあまり関係なかったと思う。ニュウドウカジカか平家蟹みたいなのもいた。勿論世にいうイケメンと呼ばれる種族もいた。そちらのほうが多かった。しかし、そんな慣れ感に包まれ、よそ見を決め込んでいる私ですら、一瞬で吸い込まれるように見てしまい、目を離すのが大変なほどのオーラを感じた。


多分さっき目があったとき、私の口は驚きと、一瞬湧いてしまった恋情で、半開きになっていたと思う。あと数秒遅かったら不覚にも涎を垂らしていたかもしれない。それぐらいの衝撃だった。

――――いやいや、これはこれは‥‥他のこと考えよう、他のこと。どうせこんなスーパーイケメン王子様なんて私の人生には何の関係もないんだから。



ええっと‥‥ええっと。

何を回想していたんだっけ?

何?何やった?誰か教えてくれない?

あ、どうして大学行けなかったのかよね?!

そうそうそれそれ!

え?そんなことはどうでもいいから、もっと前の王子様級のイケメン解説しろよって?


いやいや、あかんでしょう。もうちょっと離れていたらマジマジと見て観察して解説できるけど、この距離じゃあ無理無理。

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