合コンには気を付けて~私のアフォバイス~
駅に向かう道は三寒四温、今日は少し寒い。コートを羽織るほどではないにしても朝はすんなり薄着でというわけには行かなさそう。湿気を含んだ風は結構冷たい。昨日の夜に降った雨のせいだね。
桜が散り、濡れて乾きつつある地面で押し花のようになって張り付いている。
また雨が降るような気配の雲はない。むしろ雲間からは夏のような強烈さは無いものの太陽が差し込み、その雲間は広がりつつあり、行く宛もなく千切られた分厚い雲が群れから離れつつある。
群れから離れた千切れ雲‥‥私のようだ。
阿須那が横を歩いている。大学の一時限目がある時は距離的な差もあって、私と一緒に出る。阿須那はそれを喜んでくれた。一緒に学校に行くなんて中学校以来だねって。その気持ちに私も嬉しくなっていた‥‥のだが。
同時にお父さん譲りの親心というか、恋の失敗選手権角谷家代表みたいな私が今度は、ウキウキしている阿須那に忠告したくて仕方なくなってしまっている。
お父さん以上にお父さんな気持ちの自分がいるわ。
「お父さんの言うことは腹立つけど、あたってるよ。ホント注意したほうがいいよ」
お父さんに不愉快なこと言われたのを、奇跡の笑かしの術で撃退してやったんだけども、一言言っておく。
鼻から牛乳を出すのは偶然であって故意ではない!
そんな芸当常日頃からできるわけがない。
「気をつけるよ。けど楽しみたいやん、どんなんかなーって」
よーし、じゃあ教えてあげよう。
私の歪んだ親心がモワッと、鼻に入った牛乳と同様に湧き上がった。
「ヤリモクって言葉わかる?」
「ヤリモク?」
「シケモクじゃないよ」
「シケモク?」
ダメだ。笑ってもらえない。
モクつながりで笑いのネタにしようとしたがタバコを吸ったことがない、あるいはタバコを吸う彼氏に出会ったことがない阿須那には理解できないネタだった。
「後者は忘れて。ヤリモクは身体目的の男ってこと」
「‥‥あーお姉ちゃんのとこによく登場する人たちね」
グッサリと言葉が胸に刺さった。
あ痛~もう‥‥マジで落ち込むねんけど。。。
クソ‥‥気を取り直して。
「結局合コンなんてね、男がエッチできる女の子を探しに来てるようなもんなのよ。できれば『お持ち帰り』したいって思ってんのよ。『お持ち帰り』って分かるかな?」
「その名の通りかな?」
「そう、その名の通り。連れて帰って部屋かもしくはホテルですぐにエッチできる女探しているだけよ」
「で、お姉ちゃんはお持ち帰りされたわけだね」
二度目のブッ刺さりである。
墓穴アンド図星。
阿須那には叶わない。
「‥‥そうよ」
「いつの合コン?」
「予備校の時」
「予備校かあ。なんで予備校の時に大学の合コンに?」
「その時の知り合いのツテで、楽しい人たちだから一度参加しようよってなって」
「楽しい人たちって‥‥何のツテ?どういう知り合いかちゃんと確認したの?」
あ‥‥あれ?どうしたの?
いつの間にか、、、私が責められてる?
「そこは‥‥してない」
「おいおいおい、、、よう行くねえそんな危ないの?」
「うう‥‥」
立場が逆転した。見事に逆転した。
今度は私が問い詰められて注意されてしまう番だった。
「んで、それから?」
親から叱られているときに「それで?」と言われている気分。
「居酒屋で、合コンしたよ」
「居酒屋って‥‥まあいいわ。お酒飲んでなかったでしょうね?」
「お酒‥‥‥‥飲んでる」
「お姉ちゃんバカじゃない?それで酔わされて‥‥?」
「いやあ‥‥なんか勢いとか、周りの空気とか‥‥そういうのんでお酒もだいぶ飲まされて。前後不覚になってきて」
大きな溜息をつかれてしまった。
我ながら確かに情けない。しかし一応この時ので学んで以後は、そういう席でのお酒の失敗はしていないんだよ!
「で?気づいたときはどうなってたのよ?」
ものすごく冷めて乾ききった声で訊いてくる。
「それは‥‥その時の彼と‥‥」
「あらら‥‥そらお父さんに言われるわ。当然やわ」
「うう‥‥」
このように一連の流れで注意されてしまうと確かに私が悪い。でも、
「い、一応付き合ったよ、だから『彼』と呼んでる」
反撃してみる。
何となく結果は分かっているけど。
『付き合えたんなら、別にお持ち帰りされてもいいやん』ていう女の王道の言い訳をしてみる。
「どのくらい?」
「に、二ヶ月弱ぐらい」
「何回会ったの?」
「多分、七回ぐらい」
「それがヤリモクやん」
ヤリモク使われてしまった。ヤリモク返しだ。
「‥‥‥‥」
「ちょうどいい切り頃やん。お姉ちゃんの身体堪能しまくって、次に行くさあ」
「阿須那、あなた何者?」
こいつは何度生まれ変わっているんだ?そして前世は間違いなく遊び人だったなあ。
というか、それが正解。私も本当は何となく分かっている。
散々人の身体弄んで見切りつけやがったんだ。
「でもそれ、まだ見ない未来の私の(合コンの)ケースには当てはまらないと思うよ?」
「え?どうして?なにが?」
え?根幹から覆されるの、私?
「だってさ、その時のお姉ちゃんは予備校生だって知ってて呼んでいるんでしょ」
「‥‥多分」
多分ではなかった。
自己紹介の時におもいっきり予備校で、来年はお兄さんたちの通っているようなAランク大学に行きたいでーす、なんて叫んでチューハイを一気飲みした。
そう、確実にあいつらは知っていた。
「てことは、未成年の時でしょ。それにお酒飲ませようとしたり、お持ち帰りしようとしてくる人らでしょ」
「‥‥‥」
「それ、だいぶ程度の低い人達なんじゃね?」
「‥‥‥」
本当にそれだ。それしかないくらい、それだ。
「合コンうんぬんじゃなくて、モラルの欠如よ、モラルの」
改めて気付かされる言葉‥‥そういえば、そうかもしれない。かもしれないじゃない。確定だ。
「そういうのんと付き合っていたら、お姉ちゃんもモラルが欠如し、程度が低くなるよって話をお父さんはしてくれたのよ」
泣きそうになってきた。
朝ムカついていたお父さんの言葉が阿須那の手によって私の中に浸透させられてしまった。
「そんな危ない遊び人たちのする合コンと、他の全部‥中にはもっとひどいのもあるかもしれないけど、そういうの一緒くたにして『こうだ!』ってするのはおかしいと思うけどな」
完全なる敗北。
阿須那、あなたは大丈夫だわ。きっと強く賢く生きていける。けどもうちょっとバカにならないと彼氏できないかもというのは、言ったらまた百倍ほど返ってきそうなのでもう言わない。
でもとにかく!
「まあ、でも、ヤリモクは多いから、とにかく気をつけなさいよってこと」
なんとか逃げる!逃げる逃げる!
「何かでもお姉ちゃんのと一緒くたにされて注意喚起されるのもなあ。てか、お姉ちゃんも今日から心機一転学校やん」
「まあね、全然清々しくないけどね」
戦いに行くようで既に疲れた気分なんだ。
「お姉ちゃんこそヤリモク注意しないとね」
そこは本当にそう。阿須那がこんなにもしっかりしていて、これがスタンダードと考えれば確実に私のほうがヤバいって。
もう丸々さっき言ったことは自分へのブーメラン。何発もブーメランも矢も槍も刀も脳天から全身に突き刺さってドクドクと血が流れているわ、私きっと。
全く私の助言は通用しない。
アドバイスじゃないや。アフォバイスだ。
自嘲気味に笑ってしまう。
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