第4話 ぐうたらJK、おしゃべり

 ゴトンッ。(撮影機材を床に下ろす音)


里子「へ〜! 信ちゃん、動画配信者なんだ〜!

  高校の友だちも何人か動画作ってる子いるよ〜。

  新作フラペ飲んでみた〜とか、テレビで話題の

  あのダンス踊ってみた〜とか」


信治「そ、そうそう。そんな感じの、軽いノリのやつな。

  いまどき、別に珍しくないだろ?

  俺の動画チャンネル、登録者数も再生数も大したことないし」


里子「すごーい。三脚も自撮り棒もあるー!

  ……あ、このちっさいカメラ知ってるよ。配信者がみんなして

  使ってるやつだー。信ちゃん、本格的だねー」


信治「い……いやいや! 俺は別に、な?

  そのカメラも流行りに乗っかって、ノリで買ってみただけ

  っていうか……な?

  結局、全然使ってねえよ? はは……」


里子「ふーん? ……ね、信ちゃん。里子も撮っていい?」


信治「は?」


里子「ウエハースを開けて、カードを全種類集めるっていう

  動画を撮るんでしょ?」


信治「そ、そうだけど……まさか……」


里子「里子とコサックが撮るよー。あ、そだ、里子も

  いつものパジャマに着替えよっと」


 ガサガサ。(自分の鞄を漁る音)


信治「お、おい! まじかよ……?」


里子「里子も配信者の動画とか……Vlog? とか、

  結構見てるから、なんとなく雰囲気分かるよ。

  里子とコサックに任せてちょーだい!」




 はあ……まあいいか……。

 キツネ耳生やした女子高生とぬいぐるみのVlogってことにした方が、

 再生数伸びそうだしな……。






 ──ポヨポヨ〜ン……。(フレクサトーンを鳴らす)


里子「コンコン、ガチャ。あなたのスキマ時間に失礼しま〜す。

  キツネ見習い・リコリコと〜、キツネプロ・コサックの〜、

  んこんこ☆ちゃんねる〜!」


 フォオン。(コサックの手がフレクサトーンを叩く音)




 ……おいおい。

 ぶっつけ本番のわりに、最初のあいさつ、ばっちり

 決まってるじゃないかよ。


 んこんこ☆ちゃんねる、っていう絶妙なネーミングセンスは

 引っかかるが……ま、もう少し様子見するか。




里子「今日はー、キツネの森でも大人気のー、

  『パーフェクト・アイドル』ウエハースを開けていこうと

  思いまーす。

  コサックせんせー、この子知ってますかー? ほら、

  パッケージの表紙に描いてあるセンターの子ー」


コサック(里子の裏声)「んこー、もちろん知ってるよー。

  きたがわリツキちゃん。ぼくとおんなじ、北海道から上京してきた、

  歌も踊りもなんでもこなせる完璧なアイドル、

  目指してる子なんだよねー」


里子「へー? さすがせんせー。ちゃんと詳しいんだねー」


コサック「だって、ほら……リツキちゃんのフィギュア、

  ここに置いてあるじゃない」


里子「あー、ほんとだー。(小声で)……よく見つけたね、コサック」


コサック「リツキが北の雪国から運んできた夢は、同じアイドル養成所の

  フレンドにしてライバル、通称『フレドル』の17人と

  ぼくたちプロデューサーが一緒に育てていくんだよー」


里子「おっす。そのためにも、今日はウエハースでカードコンプ、

  がんばってこーねー。それじゃ、さっそく行ってみよー。

  れっつー、んこんこ〜☆」


コサック「んこんこ〜☆(ペチペチ)」




 なんだこりゃ……動画配信のツボを押さえてるんだか、

 押さえてないんだか。これじゃあ脱力系JKとぬいぐるみの、

 ただの漫才だな。

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