第3話 ぐうたらJK、お勉強

 ミ〜ン、ミンミン……──(けたたましいミンミンセミ)

 ジ〜イ、ジイジイ……──(けたたましいアブラゼミ)


里子「うぐあ〜……お外やだあ〜……」


信治「すぐ隣の家だろ! 少しくらい我慢しろって」


里子「あづい〜……死んじゃう〜……」


信治「ったく、着替えにも余計な時間かけやがって……。

  しょうがないだろ? 俺はなんにも持ってこなかったんだから。

  なあ、今度こそちゃんと鍵かけろよ。女子高生しか

  家にいないのに夜通し開けっぱなしとか、洒落にならないぞ」


里子「んぐお〜……ごお〜……だずげでゴザッグ〜……」


 ガチャン。(玄関のドアを施錠する音)






 ガチャン──ピッ。(信治の部屋のエアコンを付ける)


里子「んぐおぉおお〜……! ふっか〜……つ!

  ばんざい! ほら、コサックも一緒に〜……ばんざいっ!」


信治「はあ〜……俺の貴重な夏休みが……」


里子「信ちゃんのお部屋、久しぶりに来たな〜。

  んへへ、全然変わってないね。プラモデルの棚も健在だ〜。

  あの女の子のフィギュアもさ、小学生の時に里子と

  ゲーセン行って、UFOキャッチャーで三千円使ったやつでしょ?」


信治「なっ……よ、よく覚えてるな。そんな昔のこと」


里子「だって、コサックをお迎えしたのもその日だからね。

  ねー、コサック? あの日からずっと、

  コサックは里子の相棒だもんねー?」


信治「ああ……やっぱり、そのぬいぐるみ……。と、とにかく、

  夕方の買い物までに進めるだけ進めちゃうぞ。

  俺も再来週は、特別授業のレポート提出があるんだよ」


里子「うへえ、信ちゃんも夏休みの課題かー。

  大学生もタイヘンだねー、コサックー」


信治「……お前……まさか、学校でもそういう

  小学生みたいな喋り方してるんじゃないだろうな……?」




 ピピピピッ、ピピピピッ。(スマホのアラーム音)


里子「はい、30分経ちましたー。休憩のお時間でーす」


信治「もう休憩? 3回目だぞ。

  見たところ、さっきから全然進んでなくないか?」


里子「進んでますー。もともとのプリント量が多いだけですー。

  ていうか、なんで里子たち、土日なのにお勉強してるの?

  平日は絶対に学校があるんだから、土日も絶対に休まないと

  いけませんって、生徒手帳に書いておかなきゃダメだよね?」


信治「現実逃避するな。課題が終わらなくて困るのは

  未来のお前だぞ……ていうか、分からない問題があったら

  俺に聞くんじゃなかったか? 今のところ、まだ一度も

  呼ばれてないんだが……」


里子「んーん、大丈夫。プリントの問題は今んとこ

  ぜんぶ分かるから。里子にとっての問題は、この問題を

  解く意味があるのかどうかが分からないって

  ところだから」


信治「なんだそりゃ……なんかムカつくな。

  普段お前の面倒見てる教師がかわいそうになってきたぞ」


里子「ほら、コサックもさっきからずっと

  里子の隣で叫んでるんだよ?

  んこー、疲れたー。んこー、お腹すいたー、って」


信治「はいはい。分かったから、次のプリントに行けよ」


里子「いーや、もう限界ですね。里子はコサックに

  エサをあげてきます」


 ガサガサ……。(ビニール袋の中身を漁る音)


信治「あっ? おい、それ……! 俺が昨日コンビニで

  買ってきたウエハースじゃねーか!

  お前、いつのまに見つけて……」


里子「へー、この袋の中に育成ゲーム

  『パーフェクト・アイドル』のカードが1枚、ランダムで

  入ってるのかー」


 ガササッ。(袋から食玩ウエハースを1枚取り出す)


里子「信ちゃんって、昔からゲーム好きだよねー。

  でも……さすがに買いすぎじゃない?

  箱買いしたのかってくらい入ってるけど?」


信治「そ、そりゃあ撮影……ごほん、カードコンプのために

  いろんな店を駆け回ったから……いやそうじゃなくて!

  だ、ダメだ里子。それはいま開けちゃダメだ!」


里子「んあ? なんで? 里子、友だちにアニメ好きな子

  いるからけっこう詳しいんだよ。カード集めるためにいっぱい

  買うから、いつもウエハースが余っちゃって困るんでしょ?

  里子がコサックのエサにしてあげるよー」


信治「い、いや、それは確かにありがたいんだが……。

  そうじゃ、なくてだな……」


里子「んー? 何なに?」




 ……くそっ。どうしても言わなきゃダメなのか?

 そのウエハースはただのおやつでも、

 コレクターとしての趣味でもないんだって。

 だって、俺がわざわざ開封しないで取っておいたのは……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る