第2話 ぐうたらJK、お世話
互いの母親がやたら仲良くて、ご近所付き合いのついでだろう、
昔はしょっちゅう休みの日に片方の家で遊んでいた。
傍目に見れば、いわゆる幼なじみというか、
腐れ縁というか。
とはいえ、学年も違う相手といつまでも遊んでいられるほど
お互いに暇じゃない。
今となってはふたりで集まることも
ぱったりなくなったはずなんだが……。
信治「ほら、用意できたぞ。いい加減起きてこっちに来い」
里子「んー……はーい……よっこらせ……」
信治「なんでそんなに眠いんだ? 夜更かしでもしたのか」
里子「えー、夜更かし?
里子はいつだって早寝早起きだよね、コサックー?」
信治「……お前にとって12時は早起きなのか?」
里子「はーい、コサックも信ちゃんもご一緒にー。
きりーつ。れーい。ちゃくせーき」
ガタ、ガタン。(食卓に腰を下ろす里子とコサック)
信治「学校か」
里子「今日は信ちゃんが先生だから、里子が日直やるんだよー。
りょーてを合わせてください。合わせました」
信治「小学生か」
里子「いただきまーす。んむ、あむ……(メロンをかじるシャクシャク音)
んこあー、うましー。
やっぱり夏と言ったらスイカですなあー、コサックー」
信治「スイカじゃねえよ。お前がいま食ってるのはメロンだ」
里子「はりゃ? まじで?(シャクシャク)
コサックも食べてみ? これはスイカでしょうか? メロンでしょうか?」
信治「何言ってんだ、さっきから?
まだ寝ぼけてるのかよ……ったく……」
里子って、こんなにぼやっとした奴だったか?
前に見た時はこう……いかにも優等生って感じで、
なんでもテキパキっていうか。
小学校ではいつも学級委員、
中学でも生徒会長やってたって話だったけどな。
里子「里子も、ほんとは買い物行きたかったんだけどねー。
部活が遅くまであって、スーパー閉まっちゃったからさー」
信治「だからって、あんなに冷蔵庫からっぽってことがあるか?
……さては、親が出張ばかりで普段から
なんも置かない家なのか? だからお中元も放ったらかしで……」
里子「(シャクシャク)ん、うまし。ごちそーさまでした。
はーい、コサックも一緒にお皿持っていこーねー」
ガタン。(起立する里子)
信治「はあ……仕方ない。夕飯は俺んちで作るか」
里子「はえー、信ちゃんが作ってくれるの?
お料理できるのか。すごいねー大学生」
信治「だいたい、さっきも言ったけどな? 今日はお前が
俺んちに来るっていう話だったんだよ。
もし俺が来なかったら、そのまま一日中寝てる
つもりだったんじゃないだろうな?」
里子「つもりだったよー。だって今日はお休みだよ?
学校がない日くらい、家でだらーんてしなきゃ。
外は暑いし……コサックは雪国からやって来た子なんだから、
家出たらあっというまにカピカピだよー」
信治「真夏に一日中動かなかったら、結局ソファで干からびるだろ?
そのキツネのぬいぐるみだって確か……ん?」
ドタドタ……。(ソファへ歩いていく信治)
里子「んあ? どしたの信ちゃん?」
信治「高校って……大学より夏休み始まるの早いよな?
もう1週間は経っただろ」
バサッ。(プリントを広げる)
信治「ここに置いてあるやつ……もしかして全部、
夏休みの課題か? 多っ!」
里子「あたー、見つかっちった」
信治「さすが進学校……大学入試の過去問まである。
そうか、お前、2年生だもんな」
里子「特別課外授業の課題もあるんだよ?
夏休みなのに授業て。部活も大会あるのに。
……あー、そうだったそうだった。部活が終わってー、
コンビニ弁当食べてー、お風呂入ってー、
んじゃ、課題やろーってコサックとがんばろうとしてー……、
がんばれませんでした。てへ」
ペチ。(コサックの手が里子の頭を叩く音)
信治「なるほどな……どうりで……」
里子「(ぼやっとした調子で)ねー、助けて信ちゃーん。
里子、そのプリントやってもやっても全然
終わんないんだよー。
このままじゃ学校の先生に怒られちゃうよー」
ペチ、ペチ。(コサックの手が流し台を叩く音)
里子「夏休みが終わったら、また課外授業増やされて
土曜日も日曜日もお休みじゃなくなっちゃうよー。
里子の清く正しくたくましいJK生活が、
2学期からは月月火水木金金だよー」
信治「なんだそりゃ? はあ……しょうがないな……」
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