第5話 いつもと違う君
「楓、何かあった?」
僕たちは家には帰らずそのまま公園に行き、公園のベンチに座った。
楓が急に僕に顔を埋めてきたり目に涙を浮かべたりすることは今まで1度もなかった。
楓は感情をすぐに表に出すから、悲しいことがあると泣きながら何が嫌だの何が怖いだの言ってくる。
それなのに今日は何も言わない。
「んー。ううん、なんにもないよ。」
楓は真っ直ぐに前を見たままそう答える。
声は明るいのに顔が笑ってなかった。
こーいうときはあんまり聞かない方がいいのかな…僕は僕なりに気を使った結果、何も聞かないという選択をした。
僕たちはその後、公園のベンチでしばらくいつもみたいにおしゃべりし続けていた。
すると不意に楓が
「ねぇ、薫。」
と僕の名前を口にした。
僕は薫と久しぶりに言われて少し驚きながらも
「ん?なあに?」
と楓を見た。楓が口を開いた瞬間、公園の向こうから おーい と声がした。
楓のお母さんだった。
すると楓はパッと顔を振り向かせ、立ち上がって伸びをした。
「あ、もうこんな時間だ、帰らなきゃだね。
かおるんごめんね付き合わせちゃって」
楓はそう言って笑ったが、僕が今までに見たことない、苦しくて悲しそうな笑顔だった。
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