第1話 毎週金曜日の楽しみ



授業が終わって毎週金曜日、僕は最寄り駅で幼馴染と一緒に帰るのが日課になっていた。


「かおるん!!」


遠くから手を振りながら駆け寄ってきたのは

岩城楓(いわきかえで)

僕の幼馴染だ。

家も近所で、親同士も仲が良い。小学校では苗字が岩城と岩田で前後だったので、楓とはよく話した。



僕と楓は、高校で別々になった。楓は吹奏楽部が強い高校へ進学した。幼いころから習っていたホルンを極めたいと、いつも楓は僕に話してくれていた。

ホルンは世界一難しい楽器としてギネスにも認定されるほど、演奏するのが難しい楽器だそうだ。そんな楽器を楓はいつも楽しそうに演奏していた。

楓は中学時代、日本ホルン協会主催のジュニアソロホルンコンクールで見事1位を獲得した。それをきっかけに、楓はホルンにすべてをかけるようになった。




「楓、今日はレッスン何時から?」


「今日はひっさしぶりにオフ!!だから時間は気にしなくてだいじょーぶだよ!」


楓はそう言って鞄から定期を出そうとした。だが、彼女の手には通学用のバックと大切なホルンがある。楓はうまく定期を取り出せないでいた。

僕は彼女の鞄のチャックを代わりに開けて、定期を探した。


「あ、かおるんごめんねー。一番奥に入ってると思うんだけど…あるかな?」


「うーん…あ、これかな?」


僕は定期を見つけ、彼女に渡した。


「ありがと~!もーやっぱり定期みんなみたいにストラップつけるべきだよね。そしたらすぐ取り出せるもん。」


楓はニコッと笑って改札を通る。

僕も後に続いた。





楓は制服がブレザーの高校で、僕の高校はみんなセーラーだからなんだか新鮮だった。

水色のネクタイに少し短いスカートがよく似合っていた。



「ね、かおるん。来週のレッスン終わるのいつもより早いからさ、終わったら夏祭り一緒に行かない?ほら、あの小学校の近くでやるやつ!」


「お、いいよー。去年のリベンジだね。」


「うん!来年は絶対行く!って心に決めてたから!」


楓とは去年、夏祭りに一緒に行く予定だったが楓の大会と被ってしまい泣く泣く諦めたのだ。




「去年泣いてたもんねー楓。」


「あぁ!かおるんそれ言うの禁止って!!もー忘れてよーー!」


楓はほっぺたをぷくっと膨らませて僕の方を見た。

楓の瞳はいつもキラキラと輝いていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る