12 Here's our streaming show. ―ここ、俺らの配信なんだけど?―
【#三聖剣】レゾ球ぶった斬り! 第五二斬目【リク・カイ・クウ】
『上位チャットのリプレイ』
: うおおお久しぶりの聖剣メンバー揃い踏み待機
: カイー! 俺だー! ハチの巣にしてくれー!
: カイは狙撃タイプだから脳天に風穴あくだけ定期
: リーダー大丈夫? こいつらの手綱もてる?
: リーダーなら胃薬取りにいったよ
: リーダーって雑用の別名だから……
: 何言ってるんだリーダーは猛犬の飼い主だろ?(なお飼えているとは言っていない)
: リーダー! 俺だー! しつけしてくれー!
: なお従順な狗には永遠に待てがくる模様
: ぶった斬り!
: おっ配信始まった
大気を斬り裂き、
スラスターを吹かしてはいれど、その飛行は緩やかな弾道軌道を描き落下に入っていた。
フォールンフォートからの
「パッパラパーン! パパパラパパーンパパパーン! パーンパパパーパパパーパーパーン!」
: うっさw
: 開始三秒でもううるさいw
: 三聖剣の配信でボリューム下げてないとか初見さん?
: 下げたら下げたで他のあらゆる音が聞こえないんだよなぁ
スピーカーを震わすご機嫌な鼻歌に、すかさず苦情が差し込まれる。
主に味方から。
「リークー! まいどまいど五月蠅いって言ってんでしょ!」
「パッパラパーン! やっぱ気合入れるには歌が一番だしさー!」
「あんたのドヘタな鼻歌聞かされる身にもなってみろ! あたしらの気合が下がるんじゃ!」
「じゃあカイも歌えよーう。好きだろ? カラオケいったらマイク離さねーくせに」
: カイの生歌と聞いて
: ガタッ
: ガタッ
: ヌタッ
: ガタッ
「それはそれ! これはこれ! 配信でなんて歌うわけないでしょ! お前らも座れ。レールカノンでブチぬくぞ」
: ガタッ(着席)
: ゴンッ(礼)
: リーダーも何かしゃべってw
「せめてフィールドに着くまでは平穏の中にいたい」
: ちょwリーダー既に疲れてるw
: 喋らない配信者とはいったいうごご
: リーダーまだ胃薬飲んでないん?
: 今日はどこ行くの
「んー? そいや説明してないっけー? あっ、その前に自己紹介! 自己紹介しようぜ!」
「そんなの別にいいでしょ。いまさらだし」
「ダメダメ。三人そろうのは久しぶりなんだから、特にカイとかもう知らない人いるに違いない」
「嘘でしょ?」
: 知らなーい
: 初見です! 美少女に撃ってもらえると聞いてやってきました!
: そんな美少女知らないな
: そんな狙撃手しらないな
「ほとんど知ってるってこの反応」
「それはそれ、これはこれっしょ。きっちり配信始めてきましょうよ」
「まーいいけど。ホント、リクは変なところにだけ真面目だね」
やがて三機のIBは目的地に到着し、大地を滑走して停止した。
三機の他にもう一機、ドローンがついている。
配信のための映像撮影専用機だ。
IBが歩き出し、ぽっかりと口を開いた坑道の中を進みだした。
「今日はここ、『ドランケンシャフト』に入る。リスナーの中にも知っている者もいるかもしれないが、いまこのフィールドには
「そいつにアタックするのが俺たち
「第一も何も、うちの師団会三人しかいないんだけど。えー、後衛兼遊撃の『カイ』でーす。IBは『アスカロン』。よろしく」
「中衛。不本意ながらリーダーなどと呼ばれている、『クウ』だ。IBは『クラウソラス』。いつものように配信用ドローンは俺についてくる。皆もよろしく頼んだ」
: 俺たちの視点キター!
: またカイ殿が見切れておるぞー!
: カメラ視点が中衛なせいで後衛しばしば見失う問題
: かといってカイ視点だと待ちが多くて迫力に欠けるジレンマ
: 逆にリク視点とか暴れすぎて何やってるかわからんのがな
: リク一人の時は花火中継だと思ってみてる
「ドランケンシャフトなんてくるの、ゲーム開始直後以来じゃないかな」
「俺はついこないだ来たぜ。救援依頼を受けて……あっ、そうだ! 皆にも聞いてほしいことあるんだけどさー」
: その反応、お前あの時の話まだしてなかったのかよw
: 報連相が息してないぞー!?
: 報連相なんで死んでまうん?
: 水槽の水こまめに換えないから
: リクはカバンの底からお知らせプリントが発掘されるタイプと見た
「ないない。カビたパンなら出てきたことあったけど」
: なおさら悪いわw
: 食べ物カビらすのはシンプルひく
: 多摩埼パンに謝れ
「うちは代々近所のベーカリー派なんで。そうそう、そんなことよりさ! 前にここに救援来たんだけどさー。バンディッツが『ゴロー』さんでさー」
「彼か。最近あちこちで暴れてるみたいだな。被害報告をよく聞く」
「強いやつじゃん。勝てたの?」
「いんにゃ、それが背中から撃たれちまってさー。固まってるとこ真っ二つよ」
「? どゆことー?」
「まさか、救援対象に撃たれたのか。フレンドリーファイアは……いや、救援からしてバンディッツの自作自演ということなのか?」
「それがちょっとおかしかったんよね。救援対象自体はゴローさんに潰されかかってたし。いいところで助けたはずなんだけどなぁ?」
「じゃあ多分あんたにムカついたんだよ」
「そんなカイじゃあるまいし」
「おっ喧嘩売られてる? 今安売りセール? 買っちゃろか?」
: 久しぶりだというのにこやつらいちゃいちゃしおって
: リーダー手綱忘れてるよ
: リーダー放し飼い派だから
「……待て。様子がおかしい」
メンバーの話もコメント欄もまるっと無視して、クウのIB、クラウソラスが速度を緩めた。
メインカメラのある頭部がぐるりと周囲を見回す。
「いくらなんでも静かすぎる。戦闘どころか動くものすらいないのはどういうことだ」
「んー? 特別汚染地域になってるから皆来ないとかじゃ?」
「それだけなら有り得なくもないが、
「そういえば見ないね」
カイのアスカロンが強化センサーを展開し周囲を
彼女の機体は遠距離からの狙撃と支援に特化しており、そのため非常に強力なセンサー系を積んでいる。
その意味で狭い坑道フィールドであるドランケンシャフトとの相性はそれほど良くないのだが、他のメンバーが前衛として盾になることでそれを補う予定だ。
「レーダー波の通りは良くないけど。でも周辺に敵影なし。お散歩にはよさげな日だね」
: みずからお散歩をねだる犬
: それは普通の犬なのでは
「なるほど。原因はアレか」
そうしてしばらく進んだ先、彼らは出会った。
ドランケンシャフトの薄暗い坑道の奥、まんじりともせずに佇む巨大な球形の影に。
それは彼らの存在を検知するとにわかに眠りから目覚めた。
生体組織交じりの無数の足が伸び、巨体を持ち上げる。
薄暗い坑道をまばゆく照らす『電磁収束式プラズマ穿孔スパイク』の輝きが、四方八方に放たれた。
『警告。フィールドの瘴気侵蝕率が急上昇、一二五%に到達。特異性超大型個体が出現しています』
『接敵 : モルゲンステルン×一』
「おおう、思ったよりガッツリお待ちかねって感じだな」
「こいつがユニークボスかぁ。確かに見たことないタイプだね」
: なにこいつ、ウニ?
: こいつ一匹で何貫握れるだろ
: ドラ抗ならボスはシールドモールのはずよ
: 光っててつよそう
「軽く調べたがユニークボスに関する情報はほとんどなかった。当たったやつが絞っているのかもな。ともかくだ、まずは攻撃パターンを見極める。リク、相手はプラズマ系近接だ、うかつに近づくなよ。カイ、十分距離を取りながら牽制射撃を頼む」
「りょーかいっ」
「はははッ! そうそう、こうこなくっちゃなぁ!! ようこそ撮れ高! いっちょやったれやー!」
リクとエクスカリバーが飛び出し、間合いを詰めてゆく。
その装備は片手にバーストショットガン、片手に大口径ハンドガンと中距離以下の撃ち合いを得意としている。
元から重装甲の機体であるが両肩に装備したラウンドシールドを前方に向け、より防御を固めていた。
逆にカイとアスカロンは素早く下がると、長大なレールカノンを両腕で構え膝立ちで狙いをつける。
レールカノンは強力ながら重量、反動ともに大きく、軽量高機動なアスカロンには扱いづらい火器である。
それを両手持ち、静止して対反動姿勢をとることで強引に運用可能としているのだ。
ちなみにレールカノンを使う理由は単なる趣味である。
そうしてクウとクラウソラスはフィールドの全体を見渡すべく、中距離を維持しながら動いていた。
両手にライフル、背中にはロケットランチャー、プラズマジャベリン。
良い意味に言えば汎用的で、悪い意味に言えば中途半端感の漂う装備構成をしている。
それぞれに動き出した三機のIBに対し、モルゲンステルンのとるべき行動はただひとつ。
多数の足が全力で大地を蹴り、一気に加速してゆく。
ドランケンシャフトに出現する敵性存在ならば、迷いなど欠片もなくまっすぐ突撃すべし。
: 来たー! ドラ抗名物突撃祭りだー!
: ほんまこのフィールドほんま
: ユニークになっても本能には抗えなかったか
コメントがやんやと盛り上がる中、三聖剣の三人はなかなか冷静ではいられなかった。
「はっっっや! 硬っっった!」
一息の間に距離が詰まる。
エクスカリバーがショットガンとハンドガンを乱射するも、プラズマスパイクと重厚な装甲に阻まれダメージはわずかなもの。
むしろリクこそ確実に直撃コースで爆走してくるモルゲンステルンを避けねばならない。
「うわぁぁお!」
プラズマ系兵器は一撃のダメージにおいて最高峰の威力を誇る。
ボスが搭載するプラズマスパイクともなれば一撃死したっておかしくはない。
アスカロンあたりなら余裕で即死だろう。
「スラスター出力ギリ!」
前衛としてタフな打ち合いを想定しているエクスカリバーはいかんせん機体が重い。
スラスターを全力で吹かしてようやく回避できるギリギリである。
: ギリ避けた! えらい!
: 移動はっや。ここのエネミーの中で一番速いんじゃない?
: 装甲もあるしリクとは相性悪めだな
「リク、どけとけっ。避け損なったらまとめてブチ抜くよ!」
後方からアスカロンが発砲する。
細く、鋭く研がれた超音速の弾頭が、エクスカリバーをかすめるようにしてモルゲンステルンへと突き刺さった。
: でたー! カイお得意、巻き込み御免、無法のゴリ撃ちだー!
: これでFF率ゼロなのおかしくない?
: し、信頼し合ってるだけだから……
モルゲンステルンの巨体が揺れる。
しかしそれもわずかの間、すぐに何事もなかったかのように爆走を再開していた。
「ちょっとー! 手ごたえ無いんだけどー!?」
: レールカノン直撃で蚊に刺された程度なんかい
: 運営、これマジで一部隊で倒しきれる想定してる?
: 運営のことだから倒しきれなくても問題ないって思ってそう
: Q.これって問題なんじゃないですか? A.当方では問題と認識しておりません
: 即レステンプレ回答やめーや
「皆、しばらく回避重視! おそらくどこかで弱点の出るタイミングがあるはず。行動パターンを見て、弱点を出さないようなら集中して装甲はがしを仕掛けるぞ。それまで火力を温存しておいてくれ!」
「おっしおっし。お任せぇい」
「りょかーい。逃げ足なら自信あるよ」
: またカイ殿が味方を見捨てておられるぞー!
: 逃げ足のために軽量級に乗ってるのさすがカイ
: 後衛で視点もないから本当に気づいたらいなくなってるんだよなぁ
三機がまばらに攻撃を仕掛けながら回避に専念する。
散発的な攻撃は装甲に弾かれるばかりで、まさに何となく以上の意味はない。
モルゲンステルンが突撃し、エクスカリバーがスラスター全開で回避する。
直後、それまでとは大きく流れが変わった。
モルゲンステルンを覆っていた装甲が浮き上がり、配置を変える。
プラズマスパイクの輝きはそのままに、横方向に高速で回転を始めたのである。
「うおっ!? 横回転! プラズマの範囲が伸びた!?」
「こいつは……ライフルの弾が潰されてる。無敵状態か」
クラウソラスの攻撃は端からプラズマスパイクに飲み込まれ、カスダメにすらならない。
モルゲンステルンの速度が落ち、代わりにエクスカリバーを執拗に追いかけ始めた。
「俺がなにしたっていうんだよ!?」
: 強いて言えば攻撃したかな
: 追尾重視形態もあるのか
: プラズマスパイク邪魔すぎて草生える
: ちょうどいい、そこに草刈り機あるし突っ込んで来い
その間にターゲットから外れたアスカロンとクラウソラスが攻撃を仕掛けるも、全てプラズマの光に飲み込まれてゆく。
「レールカノンの弾まで溶けるんじゃ撃つだけ無駄って感じ」
そうしてにわかにモルゲンステルンが動きを止めた。
プラズマの輝きが消え去り、装甲がガシャガシャと開いてゆく。
「おお! これって反撃チャンスなんじゃな~い!」
「待てリク。うかつに……」
嬉々として前進しようとしたリクの目の前で、内部から続々と遠距離火器の数々が顔をのぞかせる。
エクスカリバーが急停止した。
「ゴメンヤバ。引きまーす」
: あっ
: あっ
: 南無南無
: 成仏しろよ
言い終わるより早く、猛烈な射撃が始まる。
左右から伸びたレールガンが轟然と弾体を投射する。
単発の威力であればアスカロンのレールカノンに軍配が上がるであろうが、連射能力が桁違いである。
足の遅いエクスカリバーへとガンガンと突き刺さり、リクが悲鳴を上げた。
「痛った! これかわしきれないんだけど!」
「装甲が自慢なんだろ。耐えろ」
「この隙にあたしが撃ったげる……ってちょ」
離れていたアスカロンが射撃姿勢をとったのとほぼ同時、モルゲンステルンの背後から多数のミサイルが放たれる。
「はいむーりー」
きゅぽん、という間の抜けた音と共にアスカロンがスモークディスチャージャーを発射。
ジャミング機能付きの煙幕に身を潜め、ミサイルをやり過ごした。
: さすがカイ、安心と信頼の逃げ足
: こいつドラ抗エネミーにあるまじき飛び道具盛り盛りだな
: 戦闘能力ヤバ。そら坑道封鎖されるわ
「攻撃激しッ! ちょっと反撃無理だコレ!」
「無理はしなくていい。まずは生存優先だ」
クウのクラウソラスが回避しながらライフルで撃ち返しているものの今ひとつ手ごたえは薄い。
そうこうしているとモルゲンステルンの中央に眩い輝きが灯り始め、射線予告レーザーが伸びた。
: あ~これはゲロビですね間違いない
: 避けて超避けて
: ボスのゲロビ率の高さよ
: 強いからね仕方ないね
「うおおおコレはマジに避けないとマズーい!」
「ちょっ! あたしも巻き込まれるでしょ、離れとけよ!」
「シンプルひっど」
エクスカリバーがスラスターを吹かして射線から逃れる。
その後ろでは煙幕に隠れていたアスカロンが慌てて飛び出していた。
「何をやっているんだ二人とも……」
: 三聖剣名物、足の引っ張り合いが始まってるw
: だいたいカイのわがままが原因定期
: リーダーいつもお疲れ様です!
: またリーダー一人で残敵掃討かな?
: 雑魚ならともかくこいつとタイマンは無理だろ
「そうならないことを切に祈っている……む」
射線予告レーザーの動きが止まり、直後に大口径荷電粒子砲の輝きがフィールドを貫いた。
一直線に伸びた荷電粒子の奔流が強烈な熱と光をまき散らす。
かろうじて回避したエクスカリバーの装甲が焙られ、ジリジリとダメージが入っていた。
「うおっしゃあッ! ちょい焦げたけど避けきったぞ!」
「あーっ。今度こそあいつ動かなくなったよ!」
大口径荷電粒子砲を放ったモルゲンステルンは動きを止めて冷却に入る。
プラズマスパイクの輝きはなく、装甲も開いたまま。
今こそ反撃の時来る。
「冷却中か。好機だ、全員で火力を集中する!」
: 止まった! チャンス!
: いけいけいけいけいけいけいけいけ
: 俺のターン! もう一回俺のターン!
: っぱ三聖剣がさいつよよ!
「攻撃なら任せろー!」
「あはは! 隙だらけじゃーん!」
エクスカリバーが肩に担いだ荷電粒子砲を展開する。
アスカロンも屈み、レールカノンを構えた。
クラウソラスが撃ちながら前進してゆく。
その腕にはプラズマブレードが装着されている、最大火力である格闘戦を挑むつもりだ。
「場合によってはオーラバーストモードの切り時か」
「オッラァ!」
荷電粒子砲が火を噴き、ついでレールカノンが弾体を投射した。
光線と物理弾体、立て続けに強力な攻撃を受けたモルゲンステルンの巨体が震える。
「ダメ押しだ!」
破壊に続いてクラウソラスが接近する。
走りながらライフルを腰のストックに収め、両腕を自由に。
「オーラバーストモード起動!」
動力炉の過剰駆動により出力が爆発的に上昇、クラウソラスの全身を光が駆け巡る。
「双剣抜刃!」
クラウソラスは両腕にプラズマブレードを装備している。
オーラバーストモードの恩恵を受け限界以上に出力を上げたプラズマの刃が伸びる。
: いけリーダー!
: ぶった切れぇぇぇ!
: っぱリーダーよ!
: たーらこー!
: そこだぁぁぁ!
「十文字切り!」
交差したプラズマブレードを叩きこもうとして――それがボスに届く前に、腕のように動く装甲がプラズマスパイクと共に差し込まれた。
「なん……だとっ! 止まってたんじゃないのか!?」
プラズマブレードの刃がプラズマスパイクによって受け止められている。
鍔迫り合い状態は互いの出力と充電量によって勝負が決まる。
しかし、IBがオーラバーストモードによって無限の出力を得られる時間は短く。
「クウ! まずい下がれ!」
「離れて! カバーする!」
すぐにオーラバーストモードの維持限界が、来た。
クラウソラスから輝きが失われ、一気に充電量を失ったプラズマブレードの刃が消失する。
「……焦った、か」
情報不足の中、勝ちを焦ってしまった。
久しぶりの配信でクウも少し浮かれていたのかもしれない。
目の前でモルゲンステルンが装甲を閉じてゆき、再び全身からプラズマスパイクの輝きを伸ばす。
クラウソラスにはそれを見守ることしかできない。
オーラバーストモードの代償だ、冷却中の出力低下によりスラスター移動で逃げることができないのだ。
: 嘘だろリーダーヤバい!
: 逃げて逃げて逃げて逃げて
: でもABモードもう切っちゃってるから……
: 冷却中に防御行動とか、運営に抗議案件では
: よろこんでー!
: でもこれでこそユニークボスよ
: それはそう
「リク、カイ。俺が死ぬ前にここから逃げろ。リスポーン後に再合流だ。後は任せたぞ」
「冗談言ってんじゃねぇって!」
視界の隅でエクスカリバーが助けに来ようとしているのを手振りで押しとどめる。
このままリクまで巻き込んで部隊を全滅させるわけにはいかない。
「ま、もちょっとだけ付き合ってあげるから。あがきなさいって」
アスカロンがレールカノンを放つ。
しかしすでに装甲は閉じ、その防御力の前ではレールカノンすら通用しない。
「そうだな、在庫処分くらいはやっておくか」
クラウソラスがライフルを撃ち、肩のランチャーから一斉にミサイルを撃ち放った。
爆発が視界を埋めるも、やはり爆炎の中からモルゲンステルンの巨体が現れ。
加速を始めたプラズマ棘付き鉄球が、クラウソラスの眼前へと迫り――。
甲高い砲声。
風切り音とともに飛来した砲弾が、モルゲンステルンの無数にある足へと突き刺さった。
バランスを崩したモルゲンステルンが大きく進路をずらし、クラウソラスの目の前で横にそれてゆく。
: えっなに
: 攻撃! どこから?
: それよりリーダーはやく逃げて
: 誰か来たのか!
クウとクラウソラスが急いでその場を離れながら頭部のカメラをぐるりと巡らせ、接近する機影を捉えた。
「ハッハ! やっちゃいました~」
「どうしようか、ミコト君。横やりはマナー違反だとおもうけど」
「そうなんだよなぁ。でも見覚えあるデストラップくらってそうだったから、ついねぇ」
見覚えのない二機のIBが戦場目指して走ってくる。
冷却が終わったクラウソラスを全速力で離脱させながら、クウは唸った。
「他プレイヤーか……。危ないところを助けられてしまったな」
: 横やり行為はアウトですなぁ
: でもリーダー助けられたし
: ほぼほぼ死亡確定だったからな
: 先に戦ってるのはこっちよ
: 相手の出方を見よう
: いっそ
クウも対処に迷っていると、向こうからオープンチャットで通信が入る。
【横やり申し訳ない。余計な手出しだったら謝るよ】
「こちら
【ん? 三聖剣……?】
相手部隊のメンバーが何かを思い出すように呟いたのとほぼ同時、情報を確認していたリクが訝し気な声を上げた。
「んー? こいつのプレイヤーネーム、どっかで見覚えあるぞ。わりと最近……」
: おいおい。そのプレイヤーネーム、お前を背中から撃ったやつだ!
「え? あー……おうわ。そうじゃん! ミコトって! こないだ救援依頼で裏切ったやつじゃん!!」
【へっ。うわぁ、あの時の変な人だ!】
戦いの空気なんて、一瞬であの世まで吹っ飛んでいった。
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