ストリーミングラプソディ
11 Prepare for war. ―準備こそを楽しめ―
――ある日の『ドランケンシャフト』にて。
【おい
【うっせぇいつまでチンタラ掘ってんだよ! モノだけじゃなく装備までお粗末かぁ!?】
【んだとォ、やんのかコラ! ……おい隣! てめーら討ち漏らしがこっち来てんだろうが!】
【少しくらいでぎゃあぎゃあいうな! こっちだって(採掘で)忙しいんだよ!】
【えっ? なんだこれ、
【あぁん!? 侵蝕率なんてほっときゃ勝手に上がるもんだろ……異常上昇だぁ?】
『警告。フィールドの瘴気侵蝕率が急上昇、一二五%に到達。
【なんだこいっ……げぇーッ!?】
【いきなりボスがッ!? こいつ、
【んだこのクソがァ! おい、お前ら手を組むぞ! 話はあの
【仕方ないな! ああコイツ、えらく足速い……攻撃が、弾かれる!?】
【だったらブレードで斬れ……うばぁ!?】
【なんだよその形態! 飛び道具なんて卑怯……げばらッ!?】
【撃て! 撃て! 数で押しゃあ沈められ……なんだよ、このレーザー】
【やばい、ゲロビが来る……あっ】
『……
――★――★――
「みーこときゅーん! 逢いたかったよぉ!! まずは再開のハグをしよう! だからセクハラ
「人違いじゃないですか。俺の知り合いに犯罪者はいないんで。それじゃポチっとさようなら」
「待って待ってごめんなさいちょっとしたジョークなんです行かないで置いてかないであっちょっ通報だけはご勘弁をぉ……!」
明けて翌日。
しっかりとした睡眠と食事をとり、ミコトは今日も今日とてレゾネイティッドスフィアの世界へと
さっそくエンカウントしたセクハラ魔人を流れるように通報したりしなかったりしていた。
「うん。今日も楽しくゲームしようね」
「はい……」
気を取り直して。
「というわけで昨日買い損ねた装備を買いに行こうか」
「はーい! 街では色々とイベントあったからね」
市場調査は十分である、今日はスィーパーズマーケットへは立ち寄らずまっすぐに
「たのもー。装備くださーい」
「はい。こちらが一覧になります」
差し出された空間投影ウインドウを眺めまわす。
さすがの店売り、お手頃価格で各種装備が並んでいた。
「制式対物ミサイルポッド、制式対甲マシンガン、制式水平二連ショットガン……。とりあえず店売りは『制式』シリーズになるわけか」
「私あんまりこういうのわからないんだけど。ミコト君的にはどういう装備がお勧めかな?」
「全部」
「うん。……うん?」
「俺なら
リセイアは「またまた~お茶目な冗談だね」なんて思いながらミコトをみやり、完全に本気の目をしていることに気付いて引いた。
むしろ既にリストを上から順にチェックしていっている。
『選ぶ』などというのは買わないことを前提にして発生する手順であり、全て買うのだから頭から順番で何の問題もない。
覚悟した人間の動きだ。
「えぇ……。こういうのって良い武器探しまわったりするものじゃないの?」
「もちろんそういう考え方もある。だけど結局、実際に使ってみないと本当に良いかどうかはわからない。それにこの手のゲームはフィールドを変えて敵が変わると有効な武器種も変わったりするから、時々によって適した装備構成を考えるのが定番なんだよね。だからあるだけ買うのがきっと正解グットOK」
「そういうものなのか」
その結果がこの買い占めのごとき行動である。
現実でメニューの上から下まで全部などという買い方はまずもってやることがないだろう、これもまたゲームならではの楽しみ方かもしれない。
「よし買えるだけ買った。まだリストに残りがあるけど、後は慣らし運転がてらお金稼ぎしてからだな!」
「待って、私もお買い物するから」
結局リセイアも彼に倣って買えるだけの装備を買っていった。
何か、新たな楽しみが花開きそうである。
「それじゃあ早速ハクウのお色直しをしにいこうか」
購入した装備は自動でプライベートアーセナルへと届けられる。
買い物時間およそ一〇分弱、彼らははやくもプライベートアーセナルへと戻ってきたのだった。
――★――★――
「部隊での共用を許可にチェックして……」
許可を設定するとすぐ、ミコトのプライベートアーセナルへとリセイアがやってきた。
同時に今まで使われていなかったシャッターが開き、一機のハクウが搬入されてくる。
リセイアの使っているほぼほぼドノーマルなハクウである。
リセイアはアーセナルに入るときょろきょろと周囲を見回し、それから何故か深呼吸を始めた。
「すはぁ~ふぅ~。ここがミコト君のお部屋……いい空気……」
「部屋も何もお互い初心者だし、どうせ外見なんておんなじデフォルトじゃないの?」
「ミコト君のプライベートにいるって事実が重要なんだよ!」
「さいで」
ついにラジオ体操を始めたリセイアを放置し、ミコトはさっさと準備を進めることにした。
このままでは話が進まない。
二機のハクウをそれぞれ立体映像で表示し、隣に先ほど買った装備の一覧を開く。
「まず、
「へぇ。他の方法っていうのは例えばどんなのがあるんだい?」
「元々IBは自由に改造できるし、武器だって好き放題に組み込みできるのさ~。でもそっちは複雑で手間がかかるから、簡単なやり方も用意されてる感じ」
腕に覚えのあるものならばIBごと自由にカスタマイズすることができる。
しかし組み込んでしまうと調整の手間が増えるし、なにより簡単に武器を乗せ換えることができなくなる。
そのためフィールド攻略の場合はハードポイントを使って付け替えるやり方が主流であった。
「後、知っておくべきは。武器類を腕に持たせると攻撃方向の自由度が高く、その代わり安定性が低くなりがちでその分火力も抑えられがちと。後は種類によってはブレードの挙動と干渉したりとか。そんで胴体に直接取り付けると安定性が高くて高威力、高反動の武器が使えるようになるけど基本、正面にしか撃てないなどの制限がある」
「こういうの、ぽんって持たせて終わりだと思ってた。思ったより奥深いものだね」
「まったく考え甲斐があるよ。たまらないよぬぇ」
「ふ~ん。ミコト君はこういうのが好きなタイプかぁ」
ニッコニコで装備リストとホログラムの間を往復しているのだ、好きかどうかなんて一目瞭然。
着せ替えよろしく装備をとっかえひっかえしながらああでもないこうでもないと唸っていた。
そういえばリセイアも仲の良いカワイイ友人に服を選ぶ時は、試着室で片端から着せる勢いでコーディネイトしていたなぁなどと思い出す。
なるほどそういうことか。
大好きな相手には最高を見繕ってあげたいし、それとして他にも種類は欲しい。
そうしてミコトの動きを眺めていた彼女はふと、ハクウの隣に表示されたままの機体に気付いた。
見たことがない機体である。
というかまったく外装がついておらず内部機構が剥き出しで、どこか不気味さを漂わせていた。
「ミコト君、そっちのIBはなんだい? あ、もしかして自分で作ってるってやつ?」
「ああこれは……。うん、作りかけというかなんというか」
ミコトは手を止めて顔を上げた。
「すごいじゃん! なんだ、もうできてたんだんだね」
「そうでもない。これはいわゆるお試し、技術試験機みたいなものだよ。ちょうど研究対象があったから作ったは作ったけど、肝心なものが足りなかったんだ」
「肝心なものって?」
「……
リセイアは首を傾げる。
実物ができているのだからいいのではというのが彼女にとっての感覚だが、実際に作る人間にとっては何かしらひっかかりがあるのだろう。
「ともかく。今はこっちの方を仕上げてからね」
そういってミコトはハクウの立体映像をずいと差し出した。
「まずリセイアさんの。動けるからね、足を生かせるビルドにするよ。基本はライフルブレードのまま維持する方向で、背中にミサイルと腰にクラッカーを追加するつもり」
「ようやく動きに慣れてきたところだし、方向が変わらないのはありがたいかな」
リセイアの機体はライフルを威力重視に換装し、プラズマブレードはよい代わりがなかったのでそのままである。
あとは武器の追加で火力の底上げが図られた形だ。
そしてミコトの機体はと言えば、いまだとっかえひっかえ装備を入れ替えていた。
「やっぱ戦闘は火力だよ、うちら火を信仰してますけぇ。というわけでヘビーガトリングちゃん……おんんんもッ! 反動やば! 腕に持たせるには最低でも両手持ち必須かぁ」
ライフルなんて豆鉄砲に見えてくる巨大なガトリング砲。
圧倒的な火力とこれもまた圧倒的な重量と反動をもつ化け物火器である。
「一覧を火力の順にして……
そんな検索をかければ当然、出てくるのはハクウの手に余る怪物ばかり。
「無誘導多連装ロケットランチャー……君最高じゃない? あ、でもタンクロッドも胴体接続なら撃てなくはないんだな……ないんだね、ふーん……そっかぁ。できるなら仕方ないよね。あ、重すぎてハクウ立ち上がれなくなった。こんなこともあろうかと! てけてて~ん、簡易サブフレーム~。機体にポン付けするだけで出力と安定を増やせる便利装備! ついでに追加装甲もかぶせておくか」
そうして気づいたときには、ミコトのハクウは一回りほど膨れ上がっていた。
隣に並ぶリセイアの機体と比べれば一目瞭然である。
しかも全高が変わらず横方向にばかり伸びたということは、当然――。
「……ミコト君。その、あまり言いたくはないんだけど。君のIB、デ……太くない?」
「これも火力充実のため必要なことなんだよ。うん」
「一種のギャップ的魅力と思えば……いやしかし……」
ミコト本人はホクホク顔で己の機体を見つめているのだから、悩むはリセイアばかりなりである。
そうして一通り外側をいじくった後、ミコトはとあるモジュールを持ち出してきた。
「それでこいつが今回の目玉装備、ジェネレータ用強化排熱器だ」
「何をするためのもの?」
「オーラバーストモードの持続時間が延長される。さらに使用後の冷却時間も短くなる」
「それすごい! どれくらい使えるようになるんだい?」
「使用可能時間が二〇秒になります」
「……まぁ、パワーアップはしてるね」
機体内部の空きスロットに排熱器を追加する。
これでもういっぱいだった。
ハクウは動かす分には癖もなく良い機体なのだが、やはり初期機体の悲しさか拡張性に乏しいのが欠点である。
その辺どうにかしたかったら自分で作れということなのだろう。
しかし自作にも問題点がないわけではない。
「店売りでそろえたからか、見事にハクウのパワーアップパーツばかり。自作したらこの辺の互換性がなぁ」
たとえば
新たに装備を入手したとして、機体に合わせて調整してやらないと使うことすら覚束なくなるのだ。
「本当、マニアックな仕様してるよこのゲーム」
このサポートの手厚さを思えば、もうずっとハクウでいいのではというのもあながち間違った考えではない。
高い自由度とは、得てして等しいレベルで責任を取ることを要求してくる。
「だけどやっぱりハクウはチュートリアル的な親切さだよ。いずれどこかで一歩踏み出して、自分だけの機体を作り上げたい」
「うん、頑張ろうね」
それでもミコトにとって止めるという選択肢はなかった。
どこまで理解してのものか、リセイアはニコニコで彼の話を聞いている。
「よし! これでひとまず支度は整ったよ」
そんなこんな、二人のハクウの新たな装備が整った。
リセイアのハクウは見た目の上では大きな変化がなく、背中に装備が追加された程度である。
対するミコトのハクウは全体的に一回り太くなったうえに装甲まで追加されており、ぱっと見では違う機体に見えるほどだ。
「それじゃあ慣らし運転にフランキングリージョンを少し回してから、ドランケンシャフトへお礼参りに行こっか」
「やったー! フィールドデートだー!」
「えーと? まぁ、それでリセイアさんのやる気が出るなら、いいんじゃないかな……」
だんだんと流されている自分に気付いて、漠然と不安になるミコトであった。
「んんー? ねぇねぇミコト君。これ見て」
そうして出撃前、フィールド情報を確かめていたリセイアがぴたと動きを止める。
差し出された空間投影ウインドウをのぞき込み、ミコトも唸った。
『フィールドレポート:ドランケンシャフト
! 特別汚染地域指定 !
推奨IBランク:D以上
予想平均瘴気侵蝕率:一二五%
フィールドの混雑状況:不明』
「うわぁ、なんだか覚えのある瘴気侵蝕率だなぁ。ってことはアイツまだいるのか」
「いるどころか、なんか大惨事になってない?」
あるいはこれもユニークゆえの特別処置なのかもしれない。
いずれにせよ彼らにとっては都合の良いことである。
「せっかく待っていてくれるっていうのならお言葉に甘えさせてもらおうじゃないか。まだちゃんとお礼もしてなかったしな」
「こっちもパワーアップしてるからね。前回のようにはいかないよ」
「その意気!」
ハクウが膝立ちとなり胸部装甲を開くや、ミコトとリセイアは操縦席に飛び乗った。
――★――★――
「特別汚染地域だってなぁ! う~ん特別、なんと馨しい響き! これはもう俺たちを待っているに違いなし! だから皆一緒に逝こうぜ!」
大はしゃぎで空間投影モニターをぶんぶん振り回す少年に、少女ともう一人の少年が億劫げに答える。
「まぁた始まった、『リク』の病気。どうしてそう変なものばっか見つけてくるの」
「そう邪険にするな、『カイ』。俺たちここしばらく忙しかったからな。久しぶりに集まるだけの歯ごたえあるモノを探してきたんだろう……たぶん」
「これこれ! こういうのが撮れ高になるわけよ! せっかく『
「ほら、単にバカなんだってこいつ」
「それはそうなんだが」
友人たちの生暖かい視線をものともせず、リクはモニターを突き付ける。
「まぁ目にも見よってカイ、『クウ』! あのドランケンシャフトが今は阿鼻叫喚の地獄なわけよ。つまりここは今祭りの最中ってわけ。そんなら踊らにゃ損々。配信者ってな常に踊る阿呆じゃないと!」
「めんどくさいって。あんただけで行きなさいよ」
「出たよカイの面倒くさがり! そうやってロクに動かねーから太……」
「テメェそこなおれやァ! オラァッ!!」
「おま!? IBも使わず物理暴力とはこれ如何にィ!?」
「今のはリクが悪い。おとなしく受け止めとけ」
リクがカイにボコされてる間、クウは特別汚染地域について情報を集めてゆく。
「……
確かにそんなものがフィールドに現れれば適正ランクのスィーパーにとってはたまったものではないだろう。
しかもいろいろな意味で悪名高いあのドランケンシャフトともなればなおさら。
「それだけに注目度も高い。リクじゃあないが配信のネタとしてこれ以上のものはないな。よくもいいネタを掴んでくるものだ」
彼らは付き合いも長く、互いのことをよくわかっている。
リクは確かにお調子者だが、面白いものを見つける嗅覚には信頼がおける。
「いいぞ、リク。なかなか面白そうだ」
「そうこなくっちゃあ! さっすがクウ、わぁかってる!」
「えー。クウがそうやってこいつ甘やかすから調子乗るんだって!」
「俺のこと一体なんだと?」
「バカ犬」
「おおん? 首輪つけてリード渡すぞコラ? 散歩を所望だぁ!」
「……ごめん。想像したらキモかったからやめて」
げんなりとした様子のカイと、ひたすらテンションの高いリクが戻ってくる。
クウが二人を見回して頷いた。
「まずは配信告知してから討伐の準備をする。久しぶりに三聖剣フルメンバーが揃ったんだ、派手にやらせてもらおう」
かがり火を見つけては自ら突っ込む虫がいる限り、世に平穏は訪れない。
かくしてドランケンシャフトに起こった小さな火は、着実に犠牲者を増やしながらさらに燃え上がってゆくのだった。
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