第28話: 揺れる覚悟
草野よもぎは、夜の街を一人歩いていた。暗い路地を進む足音が、静寂の中に響く。普段からよもぎは、学校の中では問題児として扱われ、教師や生徒たちからも疎まれていた。だが、彼自身はその視線や評価を気にすることもなく、むしろ周囲との摩擦を楽しむような生き方をしていた。
だが最近、何かが変わり始めている。いや、何かが強制的に動かされているかのようだった。あの「白装束の人物」と出会ってから、よもぎの中に不安と疑念が生まれ始めていた。
「運命…か。」
よもぎは、ポケットに手を突っ込みながら呟いた。運命なんて言葉、これまで一度も気にしたことはなかった。自分の人生なんて、適当に生きていけばいい――それが彼の信念だった。何かに縛られることや、誰かに指図されることが大嫌いで、常に自由であることを追求してきた。
だが、白装束の人物と接触してから、彼の中の「自由」というものが次第に崩れつつあった。
よもぎが初めて白装束の人物と会ったのは、数週間前の夜だった。学校から帰る途中、街外れの公園を通りかかったとき、誰かが自分をじっと見つめていることに気づいた。
振り返ると、そこにはフードで顔を隠した白装束の人物が立っていた。まるで幽霊のように静かに、そして不気味にそこに佇んでいた。
「誰だ、お前?」よもぎは警戒心を剥き出しにしながら、その人物に向かって声をかけた。
だが、白装束の人物は何も言わなかった。ただ静かに手を差し出し、その手の中には不思議な模様が刻まれた銀色のペンダントがあった。
「運命から逃れられない。」白装束の人物は、冷たい声で告げた。
その瞬間、よもぎの中で何かが変わった。彼の頭の中に、まるで何かが侵入してくるような感覚が広がり、体中が冷たく痺れるような恐怖に包まれた。白装束の人物は、彼に何かを与え、そしてそれを受け取った瞬間からよもぎは「何か」を感じるようになった。
「逃れられない運命…か。」
その言葉が、今もよもぎの頭の中で響いている。白装束の人物が告げたこと――それは自分だけではなく、他の人々にも影響を与えるものだと気づいたのは、数日前のことだった。
とおりに問いかけ、くるみに迫ったのも、すべてはその運命に関わる者たちを確かめるためだった。とおりはハズレっぽかったが、くるみには何か特別なものがある。彼女の周囲には、見えない力が渦巻いている――それをよもぎは感じ取っていた。
「田村くるみ…お前も逃げられねえんだよ。」
その確信が彼の心の中に深く刻まれていた。彼女はただの普通の女子高生ではない。よもぎと同じく、何か運命的な力に巻き込まれている。それがどのような意味を持つのか、まだ全てを理解しているわけではないが、よもぎは直感でそれを感じ取っていた。
その日の夜、よもぎは再び白装束の人物に会うために、街外れの公園へと足を向けていた。
「何なんだよ、結局…」
よもぎは苛立ちを隠せないまま、煙草に火をつけ、闇夜に向かって吐き出した。白装束の人物に会ってからというもの、彼の生活は乱れ始めていた。普通に生きていたかったわけじゃないが、こんなに混乱することも予想していなかった。
そして、しばらく歩いた後、公園のベンチにたどり着くと、そこに白装束の人物が既に待っていた。まるでよもぎが来ることを知っていたかのように。
「運命はすでに動き出している。」白装束の人物は、無感情な声で告げた。
「またその話かよ。」よもぎは煙を吐き出しながら、苛立ちをあらわにして言った。「運命運命って、結局何なんだよ?俺に何をさせようとしてんだ?」
白装束の人物はしばらく沈黙した後、静かに口を開いた。「お前は運命を選ぶことができる。そして、それを操る者たちの一人となる。」
「操る…?」よもぎは眉をひそめた。「俺が運命を操る?そんな力が俺にあるってのか?」
「お前にはその力がある。だが、その運命を受け入れる覚悟が必要だ。お前が選んだ道が、他の者たちの未来を左右する。」
よもぎはその言葉を聞いて、背筋に冷たいものが走った。運命を操る――それは自分がただ流される側ではなく、他人の人生すら変える力を持つということだろうか?そんな力が自分にあるなど、これまで一度も考えたことはなかった。
「それに、あの子も運命がある。」白装束の人物は続けた。「彼女の選択もまた、この世界の運命を決定づけるだろう。」
くるみの名前が出た瞬間、よもぎの中で何かが反応した。彼女もまた、運命の力を持つ存在――白装束の人物がそう言っているのだ。彼女もこの運命に巻き込まれ、逃れられない運命を背負っているということか。
「お前の役割は、彼女の運命を導くことだ。」白装束の人物は、無機質な声で言い続けた。「彼女の選択が未来を左右する。そして、それに関わるお前もまた、その運命に導かれている。」
よもぎは、言葉を失った。彼の中で何かが崩れていくような感覚があった。自分が運命を選び、他人の人生にまで影響を与える。そんなことを自分がしていいのか?彼にはその責任を負う自信はなかった。
「田村くるみの運命…それを俺が導くって?」よもぎは自嘲気味に笑った。「俺にそんなことができるわけねえだろ。俺はただの不良だ。」
「お前は自分の力をまだ知らない。」白装束の人物は言った。「だが、お前は選ばれた存在だ。そして、選択を迫られる日が必ず来る。その時、お前が何を選ぶかが全てを決める。」
よもぎはしばらく黙っていたが、やがて煙草を地面に捨て、足で踏み消した。「選ぶ…か。分かったよ。だが、俺がやることは俺が決める。お前の言う通りには動かねえ。」
白装束の人物は無言のまま、よもぎを見つめていた。そして、次の瞬間、その姿はまるで影のように消えていった。
よもぎは一人、公園のベンチに腰掛け、じっと夜空を見上げた。
「田村くるみ…お前はどうする?」
翌朝、よもぎは学校に向かう途中で、頭の中にある考えが渦巻いているのを感じていた。運命の力、くるみの選択、そして自分の役割――その全てが、次第に一つの方向へと向かっているように思えた。
「逃れられねえ運命、か…」
よもぎは自嘲的に笑いながらも、その内心には不安と恐怖が広がっていた。
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