第25話: 暗闇の対話
翌日の夜、シノンはくるみの家から帰る途中、不安な気持ちが頭を支配していた。白装束の人物の存在が明らかになるにつれて、運命に巻き込まれているのが自分たちだけではないということがはっきりし始めていた。特に、草野よもぎの言動が気になって仕方がない。
とおりに話しかけ、運命について意味深なことを言ったよもぎ。そして、彼が知っている「白装束」の噂。それらがどうしても一つに繋がっているように思えてならなかった。
「何かが起こっている…」シノンはそんな考えを巡らせながら、気づくと夜の街をさまよっていた。
その時、ふと気配を感じた。視界の端に、誰かの影が動いたように見えた。シノンは反射的にその方向へ目を向けると、暗がりの路地裏に二人の人影が立っているのが見えた。ひとりは、白装束をまとった人物。そしてもう一人は、間違いなく草野よもぎだった。
「よもぎ…」シノンは心臓が一瞬で跳ね上がった。
彼は息を潜めながら、物陰に隠れて二人の様子を観察した。よもぎと白装束の人物は低い声で会話をしているようだが、距離がありすぎて内容は聞こえない。しかし、その雰囲気からは何か異様な緊張感が漂っていた。
シノンは思わず、少しだけ近づいて耳を澄ませた。
「…分かっている。だが、もう少しだけ時間が必要だ。」よもぎの声がはっきりと聞こえた。彼はまるで白装束の人物に従っているかのようだった。
白装束の人物は無言でうなずいたように見えるが、そのフードの奥に隠された顔は全く見えない。彼が何を考えているのか、どんな感情を持っているのか、シノンには想像もつかなかった。
「お前が約束したことを果たせば、運命はお前の手の中にある。」白装束の人物の冷たい声が路地裏に響く。
「分かってるよ。だから邪魔されないようにしてくれ。」よもぎは苛立ったように返答した。
シノンはその言葉に強い違和感を覚えた。「邪魔されないようにしてくれ」――よもぎが何を企んでいるのか、その内容はまだ分からないが、確実に何か危険なことが起こりつつあるのは明らかだった。
その時、白装束の人物が不意にこちらの方を振り向いた。
シノンは反射的に物陰に身を潜めたが、心臓の鼓動が激しくなるのを感じた。もしかしたら、自分の存在に気づかれたのかもしれない。白装束の人物の視線が感じられるが、彼は再びよもぎに視線を戻したようだった。
「今はそれでいい。だが、お前も忘れるな。運命は逃れられないものだ。」白装束の人物は冷たい声で言い残し、その場からゆっくりと姿を消していった。
よもぎはその場にしばらく立ち尽くしていたが、やがて白装束の人物が完全に消えたのを確認すると、舌打ちをして路地裏から出て行った。
シノンは完全に息を潜めながら、よもぎが立ち去るのを確認した。その瞬間、心の中に強い疑念と恐怖が湧き上がった。
「よもぎ…あいつ、一体何をしようとしてるんだ?」
白装束の人物と何らかの取り引きをしていることは間違いない。そして、その「運命」という言葉が再び出てきたことで、くるみの運命に関わっているのではないかという直感がシノンの中に強まった。
翌日、シノンはくるみの家を訪れ、昨夜の出来事を彼女に伝える決意を固めていた。よもぎが白装束の人物と話しているところを目撃したこと、それが「運命」に関するものであったことを、すぐにでも共有しなければならないと思ったのだ。
くるみの家に着くと、彼女はシノンを迎え入れたが、その顔には少し疲れた表情が浮かんでいた。
「シノン、また何かあったの?」くるみは心配そうに尋ねた。
「実は、昨夜よもぎが白装束の人物と話しているのを見たんだ。」シノンは慎重に言葉を選びながら話し始めた。「どうやら、よもぎは白装束の人物と何か取り引きをしているみたいだった。それに、運命の話もしていた。」
くるみは驚きと恐怖が入り混じった表情を浮かべた。「よもぎが…運命に関わってるってこと?」
シノンは頷き、続けた。「ああ。彼は何かを企んでいるか、白装束の人物に操られているのかもしれない。でも、確かなのは、俺たちもその運命に関わっているってことだ。」
くるみはしばらく考え込んでから、静かに口を開いた。「シノン、もし私たちがその運命に巻き込まれているなら、どうすればいいの?逃げられない運命なんて…どうしてそんなことが起こるの?」
シノンは彼女の手をしっかりと握りしめ、真剣な目で見つめた。「分からない。でも、君を守るために俺は戦うつもりだ。何があっても、絶対に君を守る。」
くるみはその言葉に安心し、静かに微笑んだ。「ありがとう、シノン。私も、これ以上逃げないつもり。運命がどうあれ、私たちで一緒に乗り越えていこう。」
シノンは決意を新たにし、二人で運命に立ち向かう準備を整えていくことを誓った。白装束の人物の目的、よもぎの企み、そして運命がどう展開するのか――全てが次第に明らかになっていく中で、シノンとくるみは新たな一歩を踏み出した。
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