第18話: 闇に浮かぶ白い影

その日の夜、シノンは胸騒ぎを感じていた。昼間に草野よもぎが起こしたカツアゲ事件、そして学校全体に漂う不穏な空気が、彼の心を重くしていた。しかし、それ以上に気がかりだったのは、くるみのことだった。彼女が不安そうにしていた様子が頭から離れず、シノンは自然と彼女の家へ向かう決意を固めた。


夏の夜風が吹き抜ける中、シノンは街外れにあるくるみの家へと歩いていた。周囲は静まり返り、木々のざわめきだけが聞こえる。彼女が無事でいることを願いながら、シノンはくるみの家の前に立った。


いつものように静まり返った古びた一軒家が目に映る。だが、その時、シノンの視界に異様な光景が広がった。


家の中から、フードを深く被り、全身を白装束で包んだ人物がゆっくりと出てきたのだ。一目で病室にいたあのときの白装束だとわかった。


その人物は、まるで空気のように静かに現れ、くるみの家の玄関を背にして立っていた。顔はフードに覆われており、性別もわからない。白い装束は月明かりに照らされ、異様に浮かび上がって見える。シノンは驚きで足を止め、その人物の動向をじっと見つめた。


「…誰だ?」シノンは思わず声に出してしまった。


白装束の人物はシノンの声に反応し、ゆっくりと顔を向けた。しかし、フードが深く被られているため、その顔は全く見えない。シノンは、その不気味な雰囲気に背筋が冷たくなったが、それでも彼に対して問いかけた。


「君は…くるみの家に何の用だ?」シノンは勇気を振り絞り、声を強めた。


白装束の人物はしばらく沈黙していたが、やがて低く静かな声で言葉を放った。その声はどこか冷たく響いた。「君が…シノンか。」


その言葉に、シノンはさらに驚いた。自分の名前を知っているこの人物が、何者なのか。なんのためにくるみの家にいたのか。なんでここにいるのか――疑問が次々と頭に浮かんだが、すぐに問いかけるべきことを見つけた。


「どうして俺の名前を知っているんだ?それに、くるみはどこだ?彼女に何かしたのか?」


白装束の人物はシノンの問いに答えず、ただ静かに言葉を続けた。「くるみには…すでに選ばれた運命がある。君がそれに干渉することはできない。」


その冷たい言葉に、シノンは胸がざわつくのを感じた。くるみの身に何かが起きている――その直感が彼を駆り立てた。シノンは一歩前に出て、さらに問い詰めようとしたが、その瞬間、白装束の人物は一歩後退し、まるで霧のように姿を消した。


シノンは驚愕のあまり、その場に立ち尽くしたが、すぐに我に返り、くるみの家へと駆け込んだ。玄関のドアは半開きになっており、シノンは恐る恐る中へ足を踏み入れた。


家の中は暗闇に包まれ、静寂が支配していた。シノンはくるみの名前を呼びながら、彼女の姿を探した。


「くるみ!どこにいるんだ!?返事をしてくれ!」


彼の声が家中に反響するが、返事はなかった。リビングに入ると、そこにはくるみが倒れている姿が見えた。シノンは慌てて彼女の元へ駆け寄り、彼女の肩を揺さぶった。


「くるみ!しっかりしてくれ!」


くるみはゆっくりと目を開け、シノンの顔をぼんやりと見つめた。彼女はかすれた声で呟いた。「シノン…ごめん…私は…」


「大丈夫だ、くるみ。俺がいる。何があったんだ?」シノンは彼女の手を握りしめ、必死に問いかけた。


くるみは一瞬何かを言おうとしたが、そのまま再び意識を失った。シノンはその場で彼女を抱きしめながら、彼女を救うためにどうすればいいのか、焦燥感に駆られた。


白装束の人物が残した謎めいた言葉、そしてくるみに起きたこの異変――シノンは、彼女を守るためにさらに深い決意を固めた。


夜風が冷たく吹き込む中、シノンはくるみの無事を祈りながら、彼女をしっかりと抱きしめ続けた。

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