第17話: 闇に潜む影
昼休みが終わり、午後の授業が始まる直前。シノンは教室内のざわめきを感じながら、どこか落ち着かない気分で席に座っていた。草野よもぎが学校に戻ってきたことで、教室全体が緊張感を漂わせている。彼の存在がクラスメートたちに与える影響をシノンは心配していた。
くるみは隣に座りながら、視線を下に落としていた。その表情には、不安が色濃く映っている。シノンは彼女の手をそっと握り、少しでも安心させようとした。
「大丈夫だよ。何かあったら、すぐに俺が対応するから。」シノンは優しく声をかけた。
「ありがとう、シノン。でも…やっぱり、少し怖い。」くるみは小さな声で答えたが、その目には不安が宿っていた。
その時、廊下から騒がしい声が聞こえてきた。シノンが顔を上げると、クラスメートたちも一斉にざわめき始めた。シノンは一瞬耳を澄ませ、声の方向を探った。
「おい、返せよ!そんな金、持ってないって!」
「うるせぇな。お前、また俺に逆らうつもりか?」
廊下の先で、草野よもぎが他の生徒にカツアゲをしている声が聞こえてきた。よもぎは、その鋭い目つきで相手を睨みつけ、無理やり金を巻き上げようとしているようだ。シノンはすぐに立ち上がり、教室を飛び出そうとしたが、くるみが彼の袖を引いた。
「シノン、行かないで。危険だよ…」くるみの声には、心配と恐怖が混ざっていた。
だが、シノンは彼女に優しく微笑んで答えた。「大丈夫だよ。誰かが止めなきゃいけないんだ。すぐに戻るから。」
シノンはくるみの手をそっと放し、廊下へと飛び出した。彼が声のする方へ向かうと、そこでよもぎが、一人の生徒から財布を奪い取ろうとしていた。
「おい、よもぎ!」シノンは鋭い声で呼びかけ、よもぎに歩み寄った。
よもぎはその声に気づき、シノンに冷たい視線を向けた。「なんだよ、鈴木。お前、俺に何か用か?」
「その手を離せ。こんなことをしても何の意味もない。」シノンは毅然とした態度で言った。
よもぎは一瞬シノンを睨みつけたが、すぐに鼻で笑った。「へぇ、正義の味方気取りかよ?俺には関係ねぇんだよ。」
その言葉に、シノンは一歩前に出て、さらに強い口調で言った。「ここは学校だ。そんなことをしても、誰もお前を尊敬しないし、何も解決しない。」
よもぎは一瞬戸惑ったが、シノンの真剣な表情を見て、ゆっくりと手を離した。奪われかけていた生徒は、すぐに逃げるようにその場を去った。
「ちっ、つまんねぇな。」よもぎは不満げに吐き捨て、シノンを無視してその場を離れようとした。
「よもぎ、こんなことを続けても、自分が辛くなるだけだぞ。」シノンはよもぎの背中に向かって静かに言った。
よもぎは立ち止まり、振り返ることなく言葉を返した。「お前には関係ねぇよ。」
そのままよもぎは廊下を歩き去り、シノンはその姿を見送りながら、彼が抱えている闇の深さを感じ取っていた。よもぎの行動には何か理由があるはずだ。シノンはその理由を知るべきだと感じたが、今は何も言えなかった。
教室に戻ると、くるみやクラスメートたちが心配そうな顔でシノンを見つめていた。シノンは軽く笑い、「大丈夫だよ。もう終わった。」と答えたが、その心の中には複雑な感情が渦巻いていた。
これから、よもぎとの間で何が起こるのか――シノンは自分がどう動くべきかを考えながら、くるみの隣に座った。彼女の手を再び握り、心の中で彼女を守る決意を強くした。
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