第11話: 触れられない苦しみ
夏の夜、蝉の声が遠くで響く中、シノンは再びくるみの家へと向かっていた。彼がこの家を訪れるのはこれで2回目だ。病院での出来事で、くるみが別世界から来たことを知ったが彼女が抱える苦しみについて、シノンは知るすべがなかった。
「くるみ、大丈夫なのか…?」不安が胸を締め付ける中、シノンは足早に彼女の家へ向かった。
彼女の家に着くと、庭の草が少し伸び、手入れが行き届いていない様子が目に入った。シノンは玄関に立ち、ためらいながらもドアをノックしたが、中からは返事がなかった。
「くるみ、いるか?」シノンは静かに呼びかけたが、返事はなく、不安が募った。
ドアノブをそっと回すと、ドアは開いていた。シノンは慎重に中へ足を踏み入れた。家の中は暗く、冷たい空気が漂っていた。彼はリビングへと進み、そこで床に座り込んでいるくるみの姿を見つけた。彼女は頭を抱えてうずくまっていた。
「くるみ!」シノンは駆け寄り、彼女の肩に手を置いた。
くるみはシノンの手に反応し、ゆっくりと顔を上げた。その顔は青白く、額には冷や汗が浮かんでいた。彼女は痛みに耐えるように目を閉じ、手で頭を押さえていた。
「シノン…どうしてまたここに?」くるみは弱々しい声で問いかけた。
「くるみが心配で…どうしても様子を見に来なきゃって思ったんだ。何があったんだ?何がくるみをこんなに苦しめているんだ?」シノンは彼女の手を取り、優しく声をかけた。
くるみは一瞬、シノンの顔を見つめたが、やがて静かに目を伏せて語り始めた。
「昨日から…急に頭が痛くなって…どうしようもないの。何も考えられなくて、ただ耐えるしかないの。」
シノンは驚きと心配が入り混じった表情で彼女を見つめた。
「頭痛…それがこんなに酷いのか?」
くるみはかすれた声で答えた。「ええ、突然始まったの。薬も効かないし、病院に行く気力もないの。」
シノンは暫くうつむき、そっと口を開いた。
「それって…この世界に来た影響なのか?」シノンは疑念を抱きながら問いかけた。
くるみは少し考え込んだが、やがて静かに頷いた。「たぶん、そうかもしれない。頭が割れるような痛みで…何もできないの。でも…あれ以来、病院に行くのが怖いの。何も解決できないんじゃないかって…」
シノンは彼女の言葉に胸が痛んだ。彼女が抱える苦しみが、彼には到底理解しきれないものであることを感じたが、それでも彼女を支えたいという思いは変わらなかった。
「でも、君が一人で耐える必要はない。何か方法があるはずだし、俺が力になりたい。」シノンは彼女の手を強く握りしめた。
くるみはシノンの優しさに少しだけ表情を和らげた。「ありがとう、シノン。でも…まだ自分でもどうすればいいのか分からないの。もう少しだけ、時間が欲しいの。」
シノンは彼女の言葉に頷き、彼女を少しだけ離して言った。「分かったよ。でも、君が一人で辛くなる前に、俺に声をかけてくれ。いつでも君のそばにいるから。」
くるみは静かに頷き、シノンの手を握り返した。彼女の目には、少しだけ希望が宿っていた。
その夜、シノンはくるみの苦しみを少しだが理解して、彼女を支える決意を新たにした。彼女がこの世界で自分の居場所を見つけられるように、これからも彼女のそばにいるつもりだった。
蝉の声が微かに聞こえる中、シノンは家に帰る道を静かに歩いていった。
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