第4話: 変わり果てた彼女
くるみが手術を終えて数日後、シノンは再び病院を訪れた。彼女が意識を取り戻したと連絡を受け、心から安堵したものの、同時に何か不安な予感が胸に押し寄せていた。
病室の扉をそっと開けると、そこには目を覚ましたくるみがベッドに座っていた。彼女の顔にはまだ疲労が残っていたが、確かに目覚めていた。その姿を見て、シノンは急いで彼女のもとに駆け寄った。
「くるみ、大丈夫か?」シノンは彼女の手を優しく握りしめた。
しかし、くるみの反応は予想外のものだった。彼女はシノンの手を見下ろし、まるで初めて会う人を見るような冷たい目を向けた。
「あなた…誰?」くるみは低い声でそう問いかけた。その言葉に、シノンは驚きと戸惑いを隠せなかった。
「くるみ、俺だよ。シノンだよ。鈴木シノン、わかるだろ?」シノンは必死に言葉を紡いだが、くるみの表情は変わらなかった。
「知らないわ。あなた、どうして私にそんなに近づいてくるの?」くるみの声には、かつての明るさや優しさがなく、どこか冷淡で鋭いものを感じた。
シノンの心に冷たい痛みが走った。目の前にいるのは確かにくるみだが、彼女の中身はまるで別人のようだった。彼女の記憶が混乱しているのだろうか、それとも事故のショックで何かが変わってしまったのか。シノンにはその答えがわからなかった。
「くるみ、本当に俺のこと覚えてないのか?」シノンは必死に問いかけたが、くるみは無表情のままだった。
「覚えてないわ。あなたのことも、ここに来る前のことも…何も思い出せないの。」くるみは淡々と答えた。その言葉には感情がほとんど感じられなかった。
シノンは言葉を失い、ただくるみの顔を見つめることしかできなかった。事故の影響で彼女が記憶を失った可能性があることは理解していたが、彼女の態度や口調がこれほどまでに変わってしまっていることが信じられなかった。
「シノン君、彼女には少し時間が必要です。」突然、背後から医師が声をかけた。シノンは振り向き、医師に目を向けた。
「事故のショックと脳への影響で、記憶障害が起きているようです。また、性格の変化も見られる。これは一時的なものかもしれないし、長期的に続く可能性もあります。彼女の回復には、周囲の理解と支えが必要です。」医師は静かに説明した。
その言葉にシノンは頷いたが、心の中には大きな葛藤が渦巻いていた。目の前にいるのはくるみだが、彼女はもはや自分が知っているくるみではない。今後、彼女がどうなっていくのか、そして自分がどう彼女を支えればいいのか、シノンは全く分からなかった。
病室の窓から差し込む午後の光が、二人の間に静かに広がった。シノンは、くるみが再び元の彼女に戻ることを願いつつ、彼女が別人のように変わってしまった現実と向き合わなければならないことを痛感していた。
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