間話 定期報告
六月、梅雨の時期になり雨による湿度の高さとそれによるじめじめとした蒸し暑さを感じながら雫は初日の座学の時間を終え使った道具を片付けていた。
今日も真剣に勉学に励む若様はかわいかったな~もっとみていたかった。
あ、そろそろ当主様より命令されている若様のご様子の定期報告の時間だ。
私は先ほどまで若様のかわいらしい顔を思い出しとろけていた顔を直し当主様の部屋へと向かう。
当主様には5年前から若様の身の周りのお世話と観察を命じられている。
しかし、今までは定期報告と言っても月に一度であったのに若様が再教育を受けてから3日に一度に変更された。
当主様はなぜ最近になって若様により強く当たるようになったのだろう若様の魔物への態度確かに異常だが、そんなこと今に始まったことじゃないのに....
そう考えていると当主様の部屋の前に到着した。私は自分の身なりを一度確認し整え入室の許可を得るため断りの声をかける
「失礼します、若様の定期報告に参りました。」
少しの間をおいて当主様の声で「入れ」と許可の返事が返ってくる。
私は障子を開け一度お辞儀をしてから入室する。
部屋に入ると、当主様は部屋の真ん中で座禅を組んだ状態でいた。
瞑想中だったようだ普段の激情的な様子からは程遠い様子に先ほどまでの雨の音もじめじめとした感じも静寂に変わっていく。
「定期報告を始めろ」
そう命じられ私は片膝をつき報告を始める。
「若様は驚異的な速さで体の傷が治っています。太ももに孔いていた五センチていどの孔でさえも二日で完全に修復しました。このままいくと明後日には修行に参加できるかと」
若様は再教育から助け出された後意識がないときは本当に死にかけだったが意識を取り戻してからはすさまじい再生力でその傷を治している。
「さすがに速いな、まぁ傷なんぞどうでもいい足の指もそのうち生えてくる。我々は腕や足をもがれても生えてくるのだあんなものかすり傷だ、この体質はそう簡単には死なせてくれない。そんなことより、あいつの持つ魔物に対する甘さはまだ感じるか?」
「はい、魔物の話をすると時折若様が黒い感情を発するのを感じます。しかし、その感情も一瞬で消えてしまうので実際に魔物を前にしてどう行動するのかは確証を得てません。」
「魔物の醜悪さを見て、死にかけても変化がそれだけとは....退魔の一族の長となるものが魔物を憐れむなど...」
当主様がイラついて行くのを感じる。
部屋の空気がだんだんヒリついたものに変わってゆく
しかしその怒りの風船が爆発することはなかった。
当主様がいきなり頭を抑え苦しみ出したのだ
「グッ、またこれか..はやく、はやくしなければ」
「御当主大丈夫ですか!?」
私は心配してそばに駆け寄る。
「大丈夫だ!フッー、今日はもういい監視を続けろ」
そう言って私の手を振り払った。
「はい」
返事とともに私は立ち上がり部屋を後にする。
一年ほど前から当主様は定期的に頭痛?に悩んでおられる。そういえば当主様が若様に強く当たられ始めたのもそのあたりだ。
当主様のご様子も心配だが、やはり当主様は若様を非情にすることに執着しておられる。
でもあまり詮索することはできない、感づかれては若様が受けた再教育と同じ目にあわされてしまう。2,3年ほど前何をしたか定かではないが使用人の一人が魔物の餌となった、その日からこの家の事情に深入りする者はいない。
そもそも魔物被害で家族を失い路頭に迷っていた私を拾っていただいた当主様を裏切る行為はできない。
そう、いくら若様がかわいくても御当主様からの大恩をあだで返すことなんてしてはいけない。
私は変な考えを捨て雑務に戻るため足を進めた。
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雫の過去はもうちょっと後に書くはずです
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