第9話
父たちが部屋を去ってから押し入れに隠した野狐を見たが、まだ目を覚ましてはいなかった。
最初は眠っているだけかと思っていたが、夕食を食べた後で見ても眠ったままだったのでだんだん心配になってきた。
野狐の全身をよく観察したが深手だった足以外の外傷は見当たらない。
まだ内臓とか深い傷は治りきっていないのか?そう思い僕は野狐にもう少し血を飲ませることにした。
数えて143滴目ぐらいだろうか足の傷も完全に治ったので血の供給を止めた。
・・・少し待ってみたが起きないな、もう少し与えてみるか?そう思っていると野狐がいきなり前足を延ばし、ぐっと背中をそらし大きなあくびをしながら眠そうにゆっくりと瞼を開けた。
「お、やっと起きたか。痛いところはないか?」
そう呼びかけると野狐は「キュー、キュー」と小さく鳴きながらうずくまってしまった。
「怖がる必要はないよ」
僕がそう言いながら野狐に手を伸ばすと「グオ」という鳴き声とともに手をかまれてしまった。
痛い。
~野狐視点~
群れから逃げた後、私はひたすら森の奥へと進んだ。
帰る場所もなくし、頼れる者もいない、そんな私はただ進みつづけることしかできなかった。
二日歩きつづけただろうか、もう足取りがおぼつかないフラフラだった、もう限界だと思った時に大きな屋敷を見つけた。
多くの人間の気配がする!とにかく中に入ってみよう。
と考え敷地の中に入り込んだ時ついに倒れて動けなくなってしまった。するとザッザッと私に近づいてくる音が聞こえ、目線を上げてみるとそこには四、五人の人間の子供がいた。
そうだ、もう一度人に変化して助けを請うてみよう。もしかしたら助けてくれるかもしれない。
そう思ったのもつかの間後ろ足に激痛が走った。人間の子供の一人が私の後ろ脚を思いっきり踏みつけたのだ。そこからは全身を殴られたり、「昨日習った術の練習だ」と聞こえた後にはビリビリと全身がしびれる感覚もした。そこで意識が途切れた。
意識を取り戻したのは口の中に名状しがたい不思議な味、でもこれまで食べてきたものの中で一番と断言できる極上の味が広がった時だった。
体を起こそうと欠伸とともに屈伸して目を開けると目の前には人間の少年がいた。殺される!そう思いその場でうずくまった。しかし身構えていた痛みは来なかった。
目の前の少年が何か言って手を伸ばしてきた。何かされると思った私はその手に思い切り噛みついた。
口には生暖かい感覚とともに先ほどまでの極上の味が再び広がった。
人間の少年は「痛」と小さな悲鳴を上げると。落ち着いた雰囲気で「君に危害は加えない、その証拠に僕の血で傷は治っているだろ?」と言い聞かせるようにしゃべった。
その言葉で自分の体のどこにも痛みがないことに気づき、おまけにあれだけお腹がすいていた状態からも解放されていることに気づいた。
この子の血のおかげでここまで元気になった?血だけで?とにかく人間に変化して話をしよう
早速、私は人間に変化することにした。
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