第5話
私は生まれた時から、周りの野狐とは違うことを認識していた。
人間の恐怖や憎しみといった感情が心地よく感じないのだ。
まだ子供の時、同い年の野狐たちと山のふもとまで遊びに行ったことがある。そこで人間の赤ん坊を見つけた。それを住処にもって帰って大人に報告すると捨て子だろうと教えられた。そして「よくやった」と褒められた。
そこから群れの同族たちは赤ん坊をなぶり始めた。死なないようにゆっくりと。
私はその場から逃げ出してしまった。魔物として矛盾していることはわかっている。赤ん坊が出す負の感情も自分の体に流れ込み栄養になっていることも感じるでもただただ気持ち悪く、みんなのように満たされる気分にはならなかった。
そんなことを振り返っていると標的の人間の子供の背後までたどり着いた。
私は熊よりも大きい大蛇をイメージして体を変化させた。
「シャー!!」と蛇っぽく威嚇してみる。
怖いでしょ、森の奥へさっさと逃げなさい。
予想とは違い人の子供は逃げなかった、ただ...
「わーん!」
と周りの空気を引き裂くような鳴き声とともに座り込んでしまった。
私は「恐怖」と言う子供が出す悪感情をまじかで感じ取り一瞬で気分が悪くなった。加えてこの鳴き声、同族たちは心地良いと言うが私にはやはり不安な気分にさせやはり気持ち悪い。
私は我慢できなくなり、蛇の変化を解き、人に変化しなおした。
髪は柿色で瞳は金色で珍しいかもしれないが人の姿なら話を聞いてくれるだろう。
「泣かないで、いったん落ち着いて?ね?お願い」
えぐ、えぐっと嗚咽交じりだがだんだん泣き止んできた。
「あっちの方向にまっすぐ行ってみて、登山道に出られるから」
と伝えると。
人間の少年は少しの戸惑いはあるものの落ち着いた様子で
「ほんと?ほんとに戻れるの!?」
と希望に満ちた瞳で確かめてきた。
「ほんと、ほんと。ほらそろそろ暗くなってくるから急いでいきなさい」
と少年の背中を押して急がせた。
少年は「ありがとう!!」と感謝して走っていった。
私はその時何か満ち足りた感じがした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます