再会

闇に呑まれ、意識を失った私は、懐かしい軒下にいた。

畳の香りに少しおばあちゃんの匂いが混ざって、冷め切った心が溶けていくのを感じる。

なぜ、私はジュンくんの部屋にいるのだろうか。

動揺していると、後ろから若い男の人の声がし、振り向くとそこには眼に生気を取り戻したジュンくんの姿があった。

「思い出した。リコちゃんだ。あなたは僕のいとこのリコちゃんだ。ああ、そういうことかよ」

ジュンくんはおでこにかかった前髪を上げながら、よくわからないことをぶつぶつと呟いている。

「あの、私」

「ああ、ごめん。今からちゃんと話すね。」

ジュンくんはそう言って、私の隣に座った。

「要するに」

と切り出し、ジュンくんがこちらに体を向ける。

「僕、そこのシャボン玉を吹いたんだ。そしたらそのシャボン玉が『空』のはずのところで何かに当たったように弾けてさ。僕はこの部屋の壁に気が付いたんだ。それから…ほら見て、あそこ」

ジュンくんが後ろの和室にある古びた扇風機を指さす。

「あれ、コードが切れてんだ。なのに、動く。しかも、ボタンも押さずに。つまり、この部屋は僕の意思で動いているってこと。だから、リコちゃんを呼び出してみた。そうしたら、リコちゃんが冷蔵庫の中から飛び出てきたんだよ。」

「は、はぁ」

いまいち掴めないその話に、私は動揺を隠せなかった。ジュンくんは更に続けていった。

「僕はこの部屋の中ではなんだってできる。つまり、最強なんだ。」

「そう、なのね」

「ははは、そういうのリコちゃんが1番理解できてると思ったんだけどなぁ」

すっかり人間を取り戻したジュンくんを見て、泣きそうになる心を抑えた。なぜなら、患者がこのことに気がついて仕舞えば、それは担当するカウンセラーの責任になるからだ。おそらく私は懲戒免職では済まされないだろう。研究所の輩に捕まり、トラウマを植え付けられ、「患者」として捕まるのがオチだ。

でも、それでもいいような気さえする。

ジュンくんが幸せになってくれればそれでいいんだから。

私が犠牲になるだけでそれが守られるのなら私は自分の人生なんて手放してもいい。むしろ、くれてやる。

「よかった、ジュンくんがだんだんらしくなってきた。」

「うん、なんか、軽いわ。体が。」

ジュンくんがそうやって腕をまくる。注射痕が痛々しく刻まれていた。

それを見たジュンくんがあっ、と全ての謎が解けたかのような声色でつぶやいた。

私はそれを皮切りに、真実を伝えることに決めた。

「あのね、ジュンくん」

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