女=いとこ

社宅にて、一人煮物を突く、深夜1時。

私、川崎良子は、罪悪感に苛まされていた。


ジュンくんのおばあちゃん…私のおばあちゃんが死んでから2ヶ月。

私は自分の居場所に疑問を抱いている。


ジュンくんは唯一の家族であるおばあちゃんを失って、たった一人で孤独と悲しみに耐える生活を余儀なくされてしまった一方、彼よりも年上で社会人になった私はいまだに両親に愛されながら同居しているという事実。

もちろん、私はジュンくんをウチで育てないか、と何度も両親に持ちかけてみたが、両親は断固としてそれを拒否した。理由は確定はしていないけれど、どうやら彼の父親と私の父親…双子関係にある二人の間に確執があることは母親への詰めかけで理解できた。

それでも私は納得できない。

ジュンくんに罪はない。そして、彼は幸せになる権利がある。

彼の本当の両親はもうすでにいないものの、誰かに家族として愛される権利はあるというのに。

そう簡単なものではないということぐらいはわかっている。

私はまだまだ未熟な社会人一年生のひよっこだし、どう考えたってそう言った判断は私の子育てを経験した両親に委ねるべきなのはわかっている。


だけど。


…いや、もうよそう。私の悪い癖がでしゃばってきてる。


煮汁のみが残った丼を片付け、食洗機に入れる。

たまに電子レンジと間違えるからこれがまた厄介なんだよなぁ、なんて呟き、その足でシャワールームへと向かう。


シャワーヘッドから放たれるぬるま湯を、椅子に座り、項垂れるようにして髪に受ける。


研究所では毎日ああやってどこからか攫ってきた心的外傷を負った一般人(私たちはそれを「患者」という。)をとある特殊なガスが充満する部屋に入れ、その患者が最も「いつも通り」に過ごせる環境を再現する。

そうしてまず、患者の現実と精神世界との区別をする能力を失わせる。

そして、心の傷と向き合わせ、心の深淵に向かわせる。

我々の研究所ではそこに「真実」があるとし、研究を続けている。

だからその部屋は、負った心の傷の深淵に落とし込め続ける最悪の代物。

人道的な判断能力を持ち合わせた者が誰一人いないというこの環境で、私はひどいストレスを感じていた。


どんどん闇に堕ちていくジュンくんを見ると、心が折れていまいそうになる。


私は鬱って行く心情に危機を感じ、烏の行水の如くシャワータイムを切り上げた。


着替え、タオルを首にかけ、髪を高めに雑に結った。


「風呂上がりの牛乳が1番うまいもんな」

と、冷蔵庫を開けた。


数秒後、私は闇に呑まれ、意識を失った。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る