秘密裏

とある施設にて。

まともな人間が生活を送るには大きすぎる廊下と、高すぎる天井。

あらゆる生物が生きていく余地のないほどに淡々と作られているその施設は恐ろしいほどに殺気だった空気が漂っていた。

その中を、白衣を着た男がメガネを押さえながら歩いていく。

そしてそれを二、三歩後ろで足音をヒールで刻みながら歩くカジュアルオフィスな服装で歩いていく女。


「それで、被験体1435の進捗度は?」

男が後続する女にぶっきらぼうに投げかける。

「はい。順調に進んでいます。『心象没入度』は日に日に増し、昨日私が訪問した際、毎日彼の『いとこ』を演じ、カウンセラーとして通っていた私を認識できないほど進捗は進んでおります。」

「では、彼が『人間の形』を失うのもそう遠くない話ということか。」

「その通りかと。」

「思ったよりも早いな…いや、最初から彼が祖母の死を乗り越えることができないとは思ってたさ。にしても、やはり肉親の死の影響は凄まじい。」

「…はい、そうですね。」

女が眉間に皺を寄せた。しかし瞬時にそれに気がつき、顔面の緊張を、まるで一本の糸がちぎれたかのように容易くほぐす。

そうして『笑顔だが無に近い』顔を作ったのち、女は男に問いかける。

「彼は果たして『真実』にたどり着くことができるのでしょうか…?」

男はやや冷酷に答える。

「『真実』にたどり着けるかはわからない、だが、この実験によって彼が『自分』を失っていくのは事実だ。『真実』に辿り着けたとしてもそれを受け入れるか、拒絶するかにもよる。受け入れることができればそれは『近道』となりうるが『遠回り』のパターンを引くことがほとんどだ。それをしたって『真実』に身を投じることができればなんだっていい。つまり、道は進まねば意味をなさない。そのための『君』だよ。」

「ええ、わかっています。私ができることは微量なものですが、少なくとも彼の進む力にはなることを祈るばかりです。」

「頼んだよ。」

男がそう言い、『1435』と書かれた札が光沢を放つ扉を開ける。

「はい。」

女はドアの向こうに広がる古びた部屋へと入っていく。

彼女もまた、苦痛に顔を歪めながら。

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