転機

罪悪感

即身仏のようにして軒下で固まり続け、無感覚の境地に入った頃。

首に蛾が止まり、ようやく自分は世界へと戻ることができた。


「これからどうするの」

若い女性の声が後ろからなげかけられた。


知らない。

だって、「自分」がわからないから。


「そう…でも、変わんなきゃいけないのよ。」


…そんなこと、わかってるけど。

でも、『でも』と言い続けたくなってしまう。

そうでもしないと、自分が壊れてしまいそうで。


「…ねぇ、まだ私のこと、思い出せない?」


今度は少し不安が鼻にかかった声で訊いてきた。


「僕は…」

「あ、いいのいいの!ジュンくんのペースで、全然大丈夫だから。」


振り向くと、そこには一つ結びにフリフリとしたシュシュが可愛らしく咲いている女の人がいた。

その姿にどこか懐かしさを覚えつつ、僕は軒下の床から足をぶら下げる。

「どなたでしたっけ。」

苦しいくらいに自分の顔が動かなかった。

ごめんなさい。僕のこと気にかけて笑い掛けてくれているのに、僕はそれにちっともお返しすることができない。

皮膚の下にセメントを詰められている様な重みを感じる。

石像のように、振り返って動かない僕を気にすることなく、笑顔を崩さず女性は語りかけてくれた。

「私は、あなたのいとこ。ふふ、忘れちゃった?ごめんね、最近私忙しかったの。」

「あ、そうだったんですね…」

陰っていく自分の声に自責の念を曇らせた。

とても耐えられなくなってきた。

「ごめんなさい、僕、こんなんで。」

「あ、全然、気にしないで。私、久しぶりにジュン君とお話しできて嬉しいよ!」

女性の顔にまた笑顔が咲いた。

彼女の笑顔を見ていると心が軽く明るくなっていく。

同時に、それを自分には勿体無い、とも感じる。

そして、結果的にもっと暗く陰っていった。


「それじゃ、また明日!」

「は、はい。」


カラッとした笑顔で手を振る彼女は向日葵のようだった。



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