第9話 恐れ

 そんな彼女の少し恐ろしい面を見せたのは、彼女の食事の様子だった。ぐっしょりと全身を濡らして、魚をがりがりと食っていく。そして最後には丸呑みし、綺麗さっぱり。ばっくりと大きな口を開けて、真上を向き、魚のしっぽを掴んで飲み込んでいく。骨も残さない。そしてもう一度海の飛び込んで岬に戻って来た頃にはいつも通りの彼女。血を海で洗いながらしたのだろうか。

 きっとそうやって隠してきたのね。でもそんな血に塗れたあなたも綺麗なの。恐ろしい側面だってあかりにはエッセンスとしか考えられなかった。綺麗だけじゃない。ぞくっとさせる彼女に、ああこの方はやはり人間ではないと認識させた。そうして新たな一面、それも彼女の少し不気味な様子という姿を見ることができて胸が高まる。

 ああもし、もし私が見ていたらと知ったらどんな反応をするのだろう。動揺して美しさを崩すのか、それとも気恥しそうに頬を染めるのだろうか。

 恐れは畏れ。こちらを威圧させるような姿もあってこそ、彼女を彼女たらしめるのであるのだなぁとあかりは知った。相も変わらず罪なひと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る