第6話 侵食
もうどうしようもなく、もっと彼女を知りたくなった。けれども彼女の魅力は果てがない。海の底の色とりどりの珊瑚に囲まれたくて、手を伸ばす。空の星々に触れたくてつま先立ちをして手を伸ばす。けれども触れられない。どれだけつま先立ちをしても、よりその豊かな美しさには届かない、そんな感じだ。
そして朝、家を出て学校にいく。学校で時間割をこなして家に帰る。そんな家と学校の往復から、家、学校、岬、家へとルートに岬が追加されていた。しかし退屈な授業を聞き流しながら、早く彼女に会いたくて気が逸る。椅子に座りながらペンをくるくる回す。時計もこんな早く回って時間が経たないのかと憂鬱だ。
あまりにも眩い光には目が眩む。その眩んで残像が残った目がはっきり見えるようになるには時間がかかる。授業中、ずっと彼女のことが頭から離れない。目を閉じるとあの翼が、鱗が、髪が鰭が鮮明に思い出される。
目を開けて見える黒板に書かれた小文字のXよりも、彼女の見たことのない表情を暴きたかった。家に帰っても、もっと彼女といたかった恨みを少し心に抱えては家族と当たり障りのない嘘の楽しい学校生活を話して笑った。段々と、家と学校と岬だと、比重が岬の方へと傾いていく。学校は適当な時間つぶしと一応はちゃんと人間として過ごしていますよという顔をするための仮面。本物の心は常に岬にあった。あかりの日常が彼女に侵食されていく形となっていることに誰も気づかない。
なぜ何度も彼女見ても慣れないのか。それはあかりにとって、彼女の魅力が底なしだったからである。それ以上に、あの目を見開いて上目遣いをする彼女。翼を持っているのに健気に私を待つ姿。なんていとおしい。
そしてネットで何時でも誰でも発信できる時代。写真を撮って劣化しないデータとして保存できる今、カメラを通さず自分の目で見て記憶に刻み、誰も知らない自分だけが彼女を知っているこの状況がよりぞくぞくとする優越感を与えのである。
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