第5話 非日常から日常へ

 彼女を知ってから、学校帰りに岬へと通うようになった。彼女はいつでもそこにいた。言葉は交わせないものの、彼女が鞄をじっと見つめるので、これはペン、これは本とひとつずつ指で指しながらわかりやすいように大きく口を開けて発音していった。その度に興味深そうに首をかしげて目を開く表情が、その美しく大人びた姿とは対照的になんとも可愛らしい。

 うん、うん、と頷きながらにこにこしていて、もっと色んな表情を引き出したくなった。妖艶な彼女が自分だけに見せるあどけない表情。頼むから他の者に気づかせないでくれ。あまりにもきらきらと蠱惑的な魅力を纏う彼女。そんな彼女がヴェールを脱いで上目遣いをしながらこてんと首を傾げて私を見つめている。そう、私だけだ。どうしたの?と言いたげに。

 当のあかりは、この彼女を自分以外に晒してしまったらと考えただけで、架空の人間やら人魚やらに嫉妬してしまう。ああなんて罪な方。そして、なんとも罪深いことに、その罪というものに、あかりは蕩けてさえいた。

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