第4話 心を揺らす足音
彼女はあかりと言うらしい。彼女が教えてくれた。自分を指さし確かにそう発音したのだ。人間の世の中なんて何も知らないが、彼女の名前だけは知ることになった。羨ましい。
憧れの衝動の果てに翼が生えた私はただの化け物である。化け物のわたしは前のようにするすると海を自由自在に泳ぐことができなくなった。翼は海流を受けて大変泳ぎにくい。人魚たらしめるこの下半身は、飛ぶには長すぎる尻尾となって邪魔をする。空にも海にも居場所がない。もちろん地上は歩けない。世界に拒絶された存在だ。それに比べて人間は、いるべき地上に相応しい足を持ち、好きなように歩き回る。なんとも羨ましい。憧れる。
その心からつい手をあかりに伸ばしてしまった。可愛らしくも自由な彼女はわたしの手に収まった。それが何とも愛おしく、慣れない翼で包み込んでしまったのだ。自由な彼女がこの手の中に。むず痒く、そして感じたことの無いぞくぞくとした感覚に襲われてしまった。なんだか背徳感までも全身に染み渡る。その感覚から逃げるようにあかりの肩に顔をうずめた。そのまま夕方になった頃、あかりは慌てたように言葉を発して駆け出してしまった。それが淋しくて、空を掴むように手を伸ばし、そしてわたしは目を閉じた。
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