第3話 波打時の出会い

 手に入った翼は未だ慣れない。憧れた先には空にも海にも居場所がない、虚しさとそれを超えるさらなる憧れが待っていた。

 それは私が崖の上で休んでいた時のこと。天から降る冷たい水の粒たちが何度も何度も波を打ち揺らす季節。止んだ少しの合間に崖上に降り立ったのである。見下ろせば打ち寄せ白波を立てる海。見上げれば薄く柔らかな雲が空を覆っていた。仄暗い美しさの中で息をしていると、海の中にいた頃を思い出す。さらりと頬を撫でる風は潮の流れに似て、海中でも髪は潮になびいていた。この場所をみさきと知るのは人間に出会ってからの話。彼女と出会ったのはこのみさきという名の崖上であった。

 止まり木を探して、ちょうど落ち着くところがこの場所だった。ここから見える景色はなんとも形容しがたい美しさを持っていたのだ。太陽が昇るにつれ夜空はゆっくりと暖かい色に染まっていく。薄い紫色の雲をたなびかせ朝を迎えるのだ。羽衣のようなその雲がすぅっと消える頃にはもうずいぶん明るくなって、いよいよこの世界は目を覚ます。

 昼になるころ、空は太陽に照らされて突き抜けるような清々しい青色に染まっていく。そしてゆったりと日は傾いて今度は段々暗く、けれども青みを増し、実はずっと空にいた月が光と存在感と放ち始めるのである。

 頃は波打時。本来ならばすかっとした青空の空は仄暗い曇り空である。いつもならば強く優しく放たれる月光も、最近は薄い雲に遮られ、鈍く光る。朧月夜であった。揺らめくたびに照らされて光り煌めく波も、静かに、静かに目を閉じる。

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