今日は早めに床についた。毛布を頭から被って目を瞑る。

実のところ、彼は麗奈の顔表情をほぼ覚えていなかった。ただ、彼女の纏うなにかがそこにあった。

そのなにかが、彼にしか聞こえない力の抜けた声で呟く。

(明日から学校だね。何か変な感じ)

(麗奈もあした学校来てよ)

(ふふっ。何かおもしろいね。わたしがいる状態で麗奈ちゃんと会うとか。)彼女につられて、彼も笑った。部屋の中に声が溶けきって消える。それが気持ちのこもった声であったことを彼は確認した。

(麗奈には、その…感謝してんだ。麗奈のおかげで、こういうとき、麗奈だったらどうするかって、考えれるようになった。だから本当に、俺にとって一番大切な人だと思ってる。)

(それは私にいってるの?それとも…)

(どっちもだよ。どっちも。)

(…そっか。嬉しい。)

その瞬間、彼の脳裏に不意に麗奈の姿が浮かんできた。制服を着て、ベランダの柵にもたれながら、寂しく目を細める姿が立ち昇ってきた。

好きだ。と言おうとした。言おうとしたけど、言えなかった。彼は、夢を見ていたのだ。

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