三
明日から、夏休みということだった。
「豊野くん、夏休みはなんか予定あるの?」
「今年は友達と遊ぶぐらいかな。麗奈は?」
「私は軽井沢まで旅行行くよ!7月の終わりくらいに!」
「軽井沢いいとこだよね。楽しんで」
「うん!ありがと!」
溜め込んだ教科書を鞄に詰め込む麗奈を見て何か言おうと思ったが、やめておいた。
麗奈の絵姿が、夜、彼の前に現れるようになってから2週間ほど経っていた。
とにかく、暫くは麗奈と会えなくなる。
家に帰って自分の部屋にこもっていると時間は勝手に夜になった。もう話題を考えなくていいんだと思うとなんかものすごく気が楽だった。
でも、目を瞑ると、やはり彼女がいた。
彼は麗奈に言いかけたことを彼女に向かって言ってみた。
「鞄、持って帰んの大変でしょ。手伝おっか?」
「え?いや、いいよ、悪いよ。」
「いや、いいって。俺荷物軽いし。家も途中にあるから。そこまで行くよ」
「ほんとに?じゃあおねがいしていい?」
「いいよ。頂戴。」
「ありがと。ごめんね。」
…はーっふーーっはあっはあっふーっ
彼は自分がずっと息を止めていたことに気づいた。心臓の鼓動が頭に伝わって脳みそをグラグラと揺らした。ひどい感激のあまり、彼はばっと起き上がって、布団に胡座をかいてしばらく項垂れているより術が無かった。
彼は、自分のなかに、麗奈を再現できていたのだ。恐ろしいことだと思った。同時に真っ黒い喜びも湧き上がってきた。しばらく動けなくなっていた彼はおそらく彼にしか聞こえない彼女の声を聞いた。
「と、豊野くん?だいじょうぶ?」
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