二
その日から彼は、麗奈との会話のネタを寝る前に考えることにした。こうやって話題を持っていくことで、会話はいくらか形になってきた。彼は甚だ満足だった。麗奈と、話かどうかもわからないような話をすることで、彼のなかの麗奈の絵姿が次第に出来上がっていく気がした。
ある日のことである。例のごとく麗奈と話す内容を決め終わってスマホを開くと、1:45の数字が彼の目を通って脳みそへじりっと焼き付いてきた。最近は時間を忘れて彼女と話す内容を考えているのだった。
こうなると、何もかも嫌になっていくものだ。自分を蔑む言葉が頭の中に次々と再生される。自己嫌悪。息がどんどん荒くなってきた。目がくらくらする。
(死にたい死にたい死に…)
彼は、逃げるように布団をばさっと被って体を丸めた。それで、何を思ったか、「豊野くん」とのみの鳴くような声で言ってみた。
そうしていると、段々落ち着いてきたから、もそもそ動いて布団を足の方まではぐ。寝返りをうって、壁側の方に顔を向けた。
早く寝なきゃって、目を瞑った。
目を瞑ったら、そこに麗奈の姿が写った。
いや、本当はなにもなかった。けれども、彼はそこから麗奈を確かに認識していた。彼女の纏うなにかが、そこにあった気がしたのだ。
「豊野くん」
自分が言ったのか、彼女が言ったのか分からない声が、彼の耳をそっと撫でた。
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