第13話 二人も一緒に遊ぼうよ、ねッ!

「こんなところでバッタリと出会うなんて奇遇だね」


 猫のカチューシャをつけた中戸千秋なかど/ちあきが、二人が座っているベンチまでやってくる。

 まさか、こんなところで出会うとは思わず、二人は座ったまま目を点にしていたのだ。


「二人が持ってるそれって、特製ソースのたこ焼きだよね。私も食べたい!」

「こ、これか。これなら、あっちのキッチンカーで売ってたよ」


 綾瀬晴馬あやせ/はるまは指さして教えてあげた。


「私もね、実はキッチンカーのところでたこ焼きを買って食べてたの。量多めのたこ焼きを注文したんだけど。なんか、他の人のを見てしまうと、つい食べたくなってしまうのよね。そんなに多くはいらないし、一個でもいいから食べてみたいんだけどなぁ」

「まあ、一個だけならいいよ」


 晴馬は爪楊枝で特製ソースがかけられた、たこ焼きを取り、智咲の口元へと向かわせる。

 彼女は美味しそうに食べており、この味のたこ焼きを注文すればよかったと少々後悔した口調で言っていた。


「やっぱり、たこ焼きは美味しい!」


 千秋は両手で頬を抑えながら笑みを零していた。


「そういう中戸さんはどうしてここに?」


 飯田瑠璃いいだ/るりはたこ焼きを食べる手を止め、彼女へ問う。


「私ね、午後から始まるイベントに参加しようと思って、ここまで来たの。というか、二人もここに来るなら誘ってくれれば良かったのにー」


 晴馬と瑠璃は付き合っている間柄であり、デートの一環としてこの動物園で遊んでいるのだ。

 付き合っている事に関しては千秋には公言しておらず、晴馬はその事をここで言おうかどうかで内心迷っていた。がしかし、右隣にいる瑠璃から目で合図を受け、余計な発言は辞める事にしたのだ。


「まあ、ここであったのも何かの縁だし、部活ってことで一緒に遊ばない? ねえ、今からのイベントも参加するでしょ? ねえ、一緒に参加しよ?」


 事情を何も知らない千秋は強引な形で話を進めていた。


「えっと、飯田さんはどうする?」

「私は……」

「参加しちゃえばいいよ。動物園のイベントスタッフの人から、こういうのを貰ってきたの」


 瑠璃が答える前に、千秋が二人に渡してきたのは、二十五マスのビンゴカードだった。


「このビンゴゲームは、それぞれの動物の紹介掲示板のところにスタンプがあるんだって。そのスタンプを、デフォルメされた動物イラストが描かれたビンゴカードの枠に押していって、先に一直線になった人が商品を貰えるんだって。誰でも参加できるイベントだし、やろーよ。動物を愛する部活に所属してるんだし、動物関係のゲームなら挑戦していかないと動物好きとしては名が廃るってものよね」


 千秋は勝手に二人が参加するものだと思っており、腕組をして、ビンゴゲームで貰える商品の事を考えている顔つきになっていた。


「でも、私、ただ動物を見に来ただけで」


 瑠璃が断りを入れようと、そんな素振りを見せ始めていた。


「動物を見に来たのなら、このゲームに参加している際でも見れるし、ねッ、いいでしょ、晴馬くんも!」

「え、まあ……」


 晴馬は確認のために横目で瑠璃を見やる。


 二人きりの時間を邪魔された感じで、瑠璃は少々諦めがちにため息をはいていたのだ。


「いいよ、今回は参加する。私も部員だから」

「ありがと、晴馬くんもそれでOKね」

「あ、ああ。それでいいよ」


 部長の命令ならば断わるわけにもいかず、晴馬も流されるがままに首を縦に動かすだけだった。




 二人はたこ焼きを食べ終えると、すぐに準備をする。

 丁度その頃には、動物園内のイベントが開催される合図が、スピーカーによって園内にいる人らに伝わっていたのだ。


 参加する正確な数は定かではないが、ザッと見た感じ、五〇人くらいはいそうではある。

 休日という事もあってか、家族やカップルで参加している人らもチラホラと見かけた。


「これは頑張らないとね!」

「そう言えば、優勝賞品は何なの?」


 晴馬は、簡易的なストレッチで体を解している千秋に聞いた。


「一等賞は、ネットのギフトカード一〇枚よ」

「ギフトカード一〇枚?」

「そう、一万円が一〇枚ってこと。でも、二列揃えないと一等にはならないし。早い者勝ちだから、少しでも遅れるともらえないかも」

「でもさ、十万円でしょ。絶対に勝たないとね」


 晴馬の目の輝きが一瞬で変わった。

 手に入れば、それらを部費として利用する事が出来るのだ。

 ここで一等を獲得できれば勝ち格。負ければ何も無しになる。

 大きなデメリットはなく、負けられないと晴馬は思った。


 瑠璃からしたら少々不満であり、本来は晴馬との時間を楽しみたかったのである。

 瑠璃の心にモヤモヤした想いが溜まりつつある中、スタッフによってイベントの開始が宣言されたのであった。


 周りにいた参加者が皆、目の色を変え、野生で勝とうよする動物のような表情へと変貌していたのだ。


「この様子じゃ、そう簡単には行かないかもだけど。やるしかないね!」


 そう一言告げると、千秋が一枚のビンゴカードを二人に見せてきた。


「これって、この横の列と同じ動物のところを回って歩けばいいような気がするけど、合ってる?」


 瑠璃がビンゴカードを覗き込んで助言する。


「確かにね。余計な道を通らないように工夫して行動しないとだね」


 千秋は頷いていた。


「じゃあ、このパンフレットの地図を見ればわかりやすいかも」


 瑠璃は入場時に持っていたパンフレットを広げる。

 三人で囲ってその地図を見て、どこから行こうか考え込んでいたのだ。


「制限時間は三〇分で、適当には進めないから……まずは左端の動物の絵がライオンだから、その場所に行こ。この地図的には、この道をまっすぐ行ったところにあるわね」


 作戦は千秋が率先して立ててくれた。千秋は頭につけている猫のカチューシャを整え、二人も千秋と共に、部員として行動し始めるのだった。

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