第12話 一緒に食べ合いこっこしよ
「ねえ、綾瀬さんは何を食べたいのかな?」
「じゃあ、俺は――」
お昼を少し過ぎた頃合い。
二人は、動物園内の出入り口付近に設置された数台のキッチンカーを前にし、佇んでいる。
そこで、どのキッチンカーへ向かおうか考えていたのだ。
キッチンカーによって、取り扱っている商品が違う。
アイスやクレープ。たこ焼きなどがある。
その商品も良く見え、お腹が減っている事も相まって余計に悩んでしまうのだ。
「逆に、飯田さんは何を食べたいの? 俺は飯田さんに合わせるけど」
「私も、綾瀬さんに合わせようと思って。でも、クレープもいいんだけど……お昼なら、たこ焼きかなぁ」
「だったら、たこ焼きにする?」
「う、うん……でも、帰る時にクレープも買うかも」
「じゃあ、今はたこ焼きってことだね」
「ええ」
しかしながら、そのキッチンカー前には数人が並んでおり、少々時間がかかりそうであった。
数分後、前に並んでいた人らは購入を終え立ち去って行き、二人の番になる。
「ご注文は何にしましょうか」
キッチンカー内の会計場に立つ、女性スタッフから問われていた。
「たこ焼きでいいんだよね?」
「そうね……じゃあ、このタイプかな」
瑠璃はキッチンカーの隣に置かれたメニュー表の看板を見ながら、少々考え込んだ表情で言う。
看板には四種類のたこ焼きが写真と共に掲載されている。
ねぎ多めや、たこ焼きの数多め。それと特製ソース付きや、タマゴテリヤキ風味もあった。
瑠璃が指さしているのは、特製ソースのたこ焼き。
「じゃあ、自分もそれでお願いします」
「では、特製ソース二パックですね。お会計が合わせて一二〇〇円になります」
二人は会計を済ませた。すると、スタッフの女性は同じキッチンカー内にいる男性スタッフに声をかける。
その男性スタッフが料理担当らしく、手際よくたこ焼きを作り始めていたのだ。
「お買い上げありがとうございました。またよろしくお願いします!」
晴馬の手元には、紙のケースに入った二パックのたこ焼きがある。
蓋で閉じられているものの、ソースの濃い匂いが漂い始め、食欲を掻き立てられるようだった。
「ここだと人が多いし、あっちの方で食べない?」
瑠璃と共に簡易的に設置されたベンチへ移動し、二人で隣同士になって座る。
女の子とこうして一緒に過ごすのは、普段の休日と違って気分転換にもなる。
晴馬は瑠璃と一緒に、たこ焼きの紙製の蓋を開けた。
箱の中には八個入っている。
「なんか、外で食べると普段と違って美味しく感じるよね」
瑠璃は爪楊枝でたこ焼きを指し、それを口に入れ、食べ終えてから言っていた。
「そうだね」
相槌を打ちながら、晴馬もたこ焼きを爪楊枝で刺して口へ運ぶ。
口に入った瞬間から、特製ソースの味でいっぱいになる。
程よい味が口内に広がって行き、お腹が減っていた事も相まって幸せな気分になっていた。
「その顔だと、美味しい感じ?」
「そうだよ。ここの動物園には、有名な料理関係の企業が集まるからね。昔もここでたこ焼きを食べたけど、味も変わらず伝統を受け継いでいるって感じがするね。やっぱり、変わらない味っていうのもいいよね」
晴馬は自信ありげに長々と語ってしまっていたのだ。
「あ、ごめん。なんか、持論みたいな事を言ってしまって」
「別にいいよ。私は、綾瀬さんと一緒にいるだけでも楽しいし。綾瀬さんのそういう話をもう少し聞きたいなって」
「そ、そうなら嬉しいんだけどね」
晴馬が照れていると、右隣に座っている瑠璃が見つめてくる。
「ど、どうかした? もしかして、俺の顔に何かついているとか?」
晴馬は質問してみるが、彼女からの返答は特になく。ただ、見つめられているだけだった。
「私、綾瀬さんから食べさせてほしいの」
「え、なに? 食べさせる?」
晴馬は急な発言にドキッとしていた。
「うん」
「同じ内容のたこ焼きだけど」
「でも、付き合っているし、その……食べ合いっこしたいなって」
「い、いいけど」
「じゃあ、綾瀬さんのを私の口に入れてくれる?」
「え、あ……う、うん……」
急に何を言われるかと思っていれば、瑠璃は彼氏彼女らしい事をしたいだけだった。
変な間合いがあると、変に勘ぐってしまう。
それに彼女の言葉の数々が意味深な感じに聞こえ、余計に気恥ずかしくなる。
晴馬は深呼吸をし、ケースに入った、たこ焼きを爪楊枝で突き刺す。それを彼女の口元へと運ぶ。
「はうッ!」
瑠璃の口の中に黒い液体がかかった、茶色の球体を入れようとする。が、爪楊枝の差し込みからが怪しかった事もあってか、爪楊枝の先端からコロッと彼女の口の中へと入り込んでいく。
しかも、彼女の口内に熱いモノが急に入った事で食べづらそうに、はふはふと口を動かしている。
「ごめん、熱かった?」
「だ、大丈夫よ。お茶を持ってきているから――」
そう言って彼女は、小さなバッグから二〇〇mlくらいのペットボトルを取り出し、すぐさま喉を潤していた。
「こ、これで大丈夫よ。でも、少し危なかったかも」
「ごめん」
「別にいいよ。今度は私がしてあげるね。あーんして」
瑠璃はジッと瞳を合わせてくる。
この雰囲気的に、逆にやらないといけない流れだと思う。
晴馬は彼女の言う通りに従い、瞼を閉じて口を開けた。
瑠璃は晴馬が見ていない状況で、爪楊枝に刺した、たこ焼きに息を吹きかけて冷ましていたのだ。
晴馬はその事を知らない。
それから、瑠璃によって晴馬の口内には程よい温かさのたこ焼きが入り込んでくる。
咀嚼しながらも晴馬は特製ソースのたこ焼きの味を堪能し、瞼を開けた。
なんか、そこまで熱くなかったな……なんでだろ。
まあいいかと考えながら、晴馬が美味しさを噛みしめていると、遠くの方から視線を感じた。
「どうかしたの、綾瀬さん……あれ?」
瑠璃も現状に気づき、晴馬と共に、その視線の先へと目を向ける。
そこ場所には、猫のカチューシャを頭につけた
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