第11話 彼女との初めての休日
昨日の部活動を終え、土曜日の今日は特に部活などなくフリーである。
ただ、今から行く場所があった。
自宅から歩いて数分程度のところに駅があるのだ。
「飯田さんはまだ来てないか」
待ち合わせの時刻は午前一〇時。
この駅近くで
到着したものの、今のところ彼女の姿は見当たらず、晴馬は駅の中に入って待っている事にした。
地元の駅はそこまで大きな施設ではないため、切符売り場と売店や自販機がある程度。
「……時刻は、十時前か。まあ、俺の方が早すぎたかも」
昨日の夜は、ソワソワしてあまり休めていなかった。
早めにベッドに入ったのだが、寝るまでの間全然寝付けず、本格的に眠りに入ったのは、日付が変わってからの一時半ぐらいだったと思う。
少々重い瞼を擦りながらも、駅中のベンチに座って待っている。
「ご、ごめんね、待たせて」
遠くから声が聞こえ、晴馬は、それが彼女だとすぐに気づき、ハッとする。
彼女の存在に、眠気が吹き飛んだ感じだ。
「遅くなったかもしれないけど」
「そんな事はないよ。俺もさっき来たばかりだしさ」
晴馬はベンチから立ち上がる。
「本当? だったらいいんだけど。少し手間がかかって」
瑠璃は走って来たためか、少々息切れをしており、軽く深呼吸をして胸元を落ち着かせていた。
そして、彼女は服装の乱れを手直ししていたのだ。
瑠璃は白色のTシャツに、下は青色のジーンズのようなもの。
簡易的な服装であり、肩には小さなバッグをかけている。
「本当はね、別の服で行くつもりだったんだけど。クリーニングに出しているの忘れてて。それで、こんな感じになったの」
「別にいいよ。飯田さんが着やすいと思った感じの服装でも俺は別に気にしないから」
「ありがと。綾瀬さんの方は、パーカーなんだね」
「そうだね。基本的にはこんな感じ」
晴馬の場合、上が黒色のパーカーで、下がカーゴパンツのようなもの。
晴馬はそこまで服装に拘りなどなく、動きやすい服装であれば何でもいいと思っている。
ただ、瑠璃と遊ぶ約束をしている以上、変な服装はよくないと思い、このような服装になっていた。
自宅から近くのコンビニまでは、ジャージで行動する日もあったりする。
「綾瀬さんは、切符を買ったの?」
「いや、今からだけど」
「じゃあ、切符売り場に行こ。次の電車も来ると思うから」
二人は切符売り場で動物園近くまでの切符を購入し、それから改札口を通過してホームへと向かう。
そこに到着した頃には、丁度よく電車がやってきていたのだ。
電車に揺られ、数分ほど行った先の駅で降りるとバスがあり、次はそれに乗車して移動する事となった。
「ここが、綾瀬さんが言っていた動物園ね。あっちの方ではイベントがあるみたい」
動物園の入り口近くまで行くと、園内にあるキッチンカーなどが見えた。
イベントの準備をしているスタッフらが駆け足で作業をしている。
「そうだよ。でも、まだ開園してから時間も経ってないから。まだやってないと思うよ」
「そっか。だとしたら、動物園内を回る?」
「その方がいいかも」
晴馬はスマホ画面を確認するが、まだ昼食の時間でもなく、お腹の減りも酷くはない。
二人は入場券とパンフレットを手に、入り口に近い場所から準備に回って歩く事にした。
「アレって、レッサーパンダ?」
「そうだよ」
「初めて見たかも」
柵越しに、瑠璃は数匹のレッサーパンダを眺めていた。
普段の生活では殆ど関わることなく、テレビや写真でしか見る機会がない為、彼女からしたら珍しく感じているのだろう。
「遠目で見ると、タヌキにも見えるよね」
「確かに。でも、意外と違ったりするんだよね。尻尾を見ればすぐにわかるかも」
晴馬は近づいてきたレッサーパンダの尻尾の部分を指さす。
レッサーパンダの尻尾は比較的長く、白と茶色の縞模様。
対するタヌキは尻尾が短くて、一応茶色も混じっているが若干黒い。
彼女に簡単な説明をしてあげる。
「へえ、そうなんだ。綾瀬さんは、タヌキが好きって言ってたくらいだから、なんでも知ってるのね」
「まあ、ね。動物愛好部に所属しているし、それくらいわからないと部員失格なんだけどね」
「私、他の動物も見てみたい」
「じゃあ、あっちに行く?」
晴馬から率先して案内を始めるのだった。
「ここには色々な鳥がいるのね」
「今見ているのがフクロウだね」
「夜行性って聞くけど。朝も起きてるんだね」
「夜しか行動しないわけではないみたいだよ。朝、狩りをするフクロウもいるみたいだし」
「そうなの? ずっと朝方は寝ていると思ってたんだけど。でも、どうして夜の方が活動的になりやすいのかな?」
「フクロウは、鷲とか鷹との競争を避けるためだって。昔読んだ動物の本に載ってた」
「へえ、そうなんだ。競争相手がいない夜に行動するってこと?」
「そうみたいだね。そういう風に生態系が変わっていったみたいだね」
「動物の世界も大変だね」
「そうだよ。俺らの部活も人数が少なすぎて、どうなることか」
「まあ、そこは私が頑張るから。今は安心してね」
瑠璃から慰められる事となった。
「私、学校の旅行で動物園には来たことはあるけど。プライベートだと訪れることないから。私、他の場所にも行きたい。それに、綾瀬さんと一緒にいると楽しいし」
笑みを見せくれる彼女から誘われ、たまたま手が重なってしまう。
「いいよ、今日は綾瀬さんと一緒に遊ぶ約束をしていたし……それに付き合っている関係だから……」
頬を紅潮させる瑠璃の方から手を繋いできて、晴馬もそれに応じるように手を繋ぐ。
二人は、別のエリアへと向かって歩き出すのだった。
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