第4話 好きな動物って何かな?
「このお皿を使ってもいいの?」
「別にいいよ」
リビングの長テーブルを布巾で拭いている晴馬は、キッチンの方にいる
それから数分後に、スーパーで購入してきた総菜を皿に乗せ、リビングまでやってくる瑠璃。
彼女は拭き終わった長テーブルにそれらを置いていた。
それからご飯とインスタントの味噌汁を用意し、二人は席に隣同士で座る。
二人はテーブルに置かれた野菜炒めと麻婆豆腐を無言で食べ始めたのだ。
「……飯田さん、テレビとかつけた方がいい?」
無音のまま夕食を取るというのも虚無すぎて、晴馬の方から提案したのだ。
「どっちでもいいけど。綾瀬さんは、テレビを見ながら食べる派?」
「基本的に一人で食べることがあるから、たまにだけど見る派かな」
「じゃあ、つけてもいいよ。私もテレビ見たいし」
瑠璃からそう言われ、晴馬は近くにあったリモコンを使って電源をつける。
最初、画面上に映ったのは、ニュース番組だった。
何となくリモコンのボタンを押し、番組を変える。
すると、動物特集的な番組があったのだ。
そういや、今日は動物番組特集の日だったな。
動物特集とは数年前からテレビで週一放送されている番組。
色々な家庭に番組メンバーが訪問し、そこの動物と遊んだりするといった内容なのだ。
晴馬は元から動物が好きだったが、この番組を見てからペットを購入したいと考えたりする事もあった。
けれど、姉が動物嫌いという事もあって、両親からは良いと言われていたが、姉から猛反対され、未だに自分のペットは持っていなかったのだ。
動物番組を見ていると、欲しいという欲求に駆られてしまうが、そこはグッと我慢している感じだった。
いずれかは、自分だけのペットが欲しいとは思っているが、多分それはもっと先になると思う。
高校を卒業して一人暮らしをする時かもしれないし、姉が結婚して別の家で過ごすようになってからかもしれない。
できない事よりも、今出来ることを考えた方がいいに決まっている。
今は学校で少しは動物と関わる事が出来ているのだ。
それなりに満足もしているし、日々の生活に充実しているとも感じている。
「ねえ、綾瀬さんは、どんな動物が好きなの?」
瑠璃は一旦食事をする手を止めて話してきたのだ。
「え? まあ、そうだね。キツネとか、タヌキとか。イヌ科の動物は好きかな」
晴馬は手にしていた箸をテーブルに置き、考え込みながら返答していた。
「へえ、確かにキツネもタヌキもイヌ科だものね」
「飯田さんの好きな動物って何?」
「そうね、イルカとかペンギンかな……あとは大体、水族館にいる動物は好きかも。昔はイルカショーを見に、水族館に行っていたから」
「そうなんだ」
「今は行ってないんだけど」
瑠璃の声のトーンが小さくなる。
「なんで行かなくなったの?」
「それは、まあ、色々あって」
「え?」
「んん、なんでもない。多分、そういう気分じゃないのかも。心に余裕が出来たら、また行くかも」
彼女は過去を思い出したくないのか、すぐに話題から目を逸らそうとしている感じだった。
「でも、まあ、人生って色々あるしね。そこまで言いたくない事なら、いいよ。俺もそんなに気にしないから」
「ありがと」
瑠璃はコップに入っている水を飲んで、心を落ち着かせていた。
「でも、動物って見ているだけで癒されるものよね」
「そうだよね。暇があったら、今度でもいいんだけど、どこかの動物園にでも行かない?」
「うん、いいよ」
「じゃあ、どこかがいいかな。この近くだとないから。駅で少し行ったところに動物園があったね。そこでいい?」
「いいよ、そこでも」
「じゃあ、決まりだね」
強引だが、彼女と約束をすることが出来ていた。
一応、彼女とは付き合う事を条件に廃部から免れているのだ。
廃部にならない為にも、彼女と色々な場所へデートに行こうと思った。
「えっと、綾瀬さんは、家にペットが居たら、どんな事をしたいの?」
丁度、食事を終えた頃合い、瑠璃の方から問いかけてきた。
「そうだねぇ。やっぱり散歩したり、遊んだりとか? 一緒の時間を過ごしたいなって思ってるけど」
「じゃあ、これでも使って」
「え?」
瑠璃が紐を見せてきた。
学校で彼女が手にしていた犬の紐である。
「それ、さっきも見たけど。普段から所持しているの?」
「そ、そうだね」
彼女は小声で返答してきた。
その声は多少震えていたのだ。
「犬を飼っているとか?」
「いいえ」
「え? どういうこと?」
「これをね、使ってほしいってだけ」
「犬に?」
「……私に」
「……ん?」
どこか彼女と会話が嚙み合っていなかった。
よくよく瑠璃の方を見てみると、彼女の頬は真っ赤に染まっていたのだ。
「綾瀬さんって、犬系の動物が好きなんだよね。だから、これを私に使って、ペットのように扱ってほしいの」
「い、いや、いや、というか、どうしてそういうことに⁉」
「私、綾瀬さんの事は昔から気になってて、それで、犬と一緒にいるあなたを見て。私も撫でてほしいというか」
「⁉ 撫でる⁉」
「うん。だから、これからは私と一緒の時は使ってほしいの。私をペットの代わりに」
瑠璃は意味不明な言葉を並べており、晴馬が状況を理解するまで数分ほど時間を要した。
でも、理解できたとしても、すぐに受け入れることなどできず、これが現実かどうかについて頭を悩ませ、再び彼女の顔を見やる。
「お願い」
瑠璃は目の瞳孔をハートマークにしており、彼女が本気である事が伺えたのだ。
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