第2話 副生徒会長は怪しいモノを持っている?
廃部からは免れていた。
でも、これからが重要なのだが、何をすればいいのか悩ましいところである。
しかし、何度も思考を重ねていたものの、特にこれといった良い案は浮かぶ事はなかったのだ。
「ねえ、あなた達が飼っている動物はこれだけなの?」
「ん? そうだけど」
部室の棚に置かれたハムスターが入った籠の中を覗き込んでいるのは、副生徒会長の
「まあ、部費的な問題で、あまり多くは飼えないんだよ。それに、部員も俺と中戸さんだけで。一応、副生徒会長も含めても三人だし」
「話によれば、昔は多くの動物を飼っていたのよね?」
「んー、確かにそうだね。卒業した先輩の代までは、鶏とか、ネコとかも飼っていたらしいね」
「へえ、そうなんだ」
副生徒会長は亀が入っている籠も覗き込んでいたのだ。
「私、亀を真剣に見たことがなかったから新鮮かも」
「そうなんだ。じゃあ、触ってみる?」
「え? いいよ。遠慮しておくわ」
彼女から拒否されてしまった。
「一応確認のために聞くけど、副生徒会長が頼んでくれるんですよね? 部費の件とか」
「え、ええ。そうよ。どこまで生徒会長に交渉できるかはわからないけど。それに、私もこの部活を廃部にしたくないから」
瑠璃は、ウサギがいる籠の中も覗いていた。
「副生徒会長は動物が好きって言っていたけど。入部理由はそれだけなの?」
「え? ま、まあ、そうよ。それだけ」
瑠璃は晴馬の方を振り向いて、ぎこちない笑みを見せていた。
「そうなんだ。じゃあ、一年の時から入部すればよかったのでは? そうすれば、もう少し他の動物とかも見れたと思うんですけどね」
晴馬が話していると、瑠璃から顔を背けられてしまったのである。
「まあ、それよりも部員が増えることがいい事です! これから仲良くやりましょうねッ!」
動物の資料を読んでいた
「では、よろしくお願いしますね! 飯田さん!」
「は、はい」
瑠璃は千秋から急に距離を詰められ、少々驚いているようだった。
「部室にいるのもつまらないと思うので。ちょっと外に出ましょうか」
千秋がその場を仕切り始めていた。
「え、外に出てどうするの?」
晴馬がパイプ椅子に座ったまま彼女に問う。
「それはこの近くにちょっとした動物公園があるじゃないですか」
「あるね」
「新入部員も入った事なので、交流のために行きましょう!」
動物のカチューシャを付けた千秋は張り切っており、率先して部室から出て行ったのである。
二人は後を追うように、ついて行く事にしたのだ。
三人は学校から徒歩五分ほどのところにある動物公園にやってきていた。
動物がいる場所と言えども入場料は無し。
ただ、餌代分は支払う必要性があるため、完全な無料ではないのだ。
この公園にいるのは、鹿である。
鹿のせんべいを購入して食べさせることが出来る場所なのだ。
とある場所の鹿公園のように鹿が解放されているわけではなく、人間と鹿で仕切りがある。
「まあ、学校で多くの動物を飼えないので、私たちはたまに、ここで餌をあげてるんです! はい、飯田さんもやってみますか?」
「私もやるの?」
「はい! 部員として活動の一環としてね」
瑠璃は千秋から貰った鹿せんべいを、仕切りの中にある地面に落とす。
すると、遠くにいた数匹の鹿が集まってくる。
首を下に向けて、数匹の鹿たちがそれを食べていたのだ。
「こういうの見ていると、癒されるのよね」
千秋はニコッとしながら、頭につけていた動物のカチューシャを取り、鹿のカチューシャに変えていた。
千秋は鹿の鳴き声をしながら、せんべいをあげていた。
彼女は妙に動物の真似が得意なのである。
「晴馬さんも」
「そ、そうだな」
晴馬も手にしていた鹿せんべいを仕切りの地面に落とす。
鹿らは、しっかりと食べてくれていたのだ。
動物と同じ空間にいるだけでも辛い感情が薄れ、心が楽になる。
晴馬の自宅では動物を飼うことができない為、この部活に所属しているのだ。
晴馬は近寄って来た鹿の頭を撫でる。
この時間を楽しみながらも、他の鹿らの姿も目で追うように観察するのだった。
「それで、お二人さんはどうしますか? 私はもう少しここに残りますけど?」
「そうか、もう五時半か。そろそろ時間だものな。副生徒会長はどうしますか? まだ残ってますかね?」
晴馬はスマホの画面を見ながら、瑠璃に問いかけていた。
「んー、私はそろそろ帰ろうかな。あまり遅く帰ってもよくないし」
「じゃあ、俺もそろそろ帰ろうかな」
「では、帰るってことですね。了解しました! 私、明日までに鹿の報告書を作成しておくので!」
「わかったよ。じゃあ、後は頼むね」
晴馬は気さくに話し、瑠璃を連れて動物公園から離れる事にしたのだ。
「それで、今日はどうだった? 楽しかったですかね?」
「ええ、色々な動物とかを見れたし」
二人は部活棟まで辿り着いており、その廊下を歩きながら話していた。
「じゃあ、良かったですね、副生徒会長」
「……あの」
「どうかしましたか?」
「その、そう言う話し方じゃなくて、もう少し砕けた話し方をしてきてもいいんだけど。それに、副生徒会長じゃなくて飯田さんでいいわ」
「でも、さすがに副生徒会長に対して、そんな話し方をするのは」
「いいの! これは生徒会からの命令だから。そこはちゃんとしてほしいんだけど」
「わ、分かったよ……い、飯田さん」
あまり関わった事のない子に対して砕けた口調で言う事に抵抗があったものの、口に出してみると案外心がすっきりする。
そもそも、彼女とは同級生であり、一応同じ教室で過ごしているのだ。
これから同じ部活をして行くのに、変なわだかまりがあってもよくないだろう。
瑠璃は教室内でも真面目な態度を見せていることが多いものの、話してみると普通の女の子なのだと実感できる。
「うん、それでいいわ。あとね、今日は一緒に帰れないかな?」
「いいけど。その前に部室に戻って必要なモノを取ってくるよ」
「うん」
そう言い、晴馬が駆け足になると、彼女が急に背後から左手を掴んできたのだ。
「ど、どうしたの?」
晴馬は振り返る。
すると、彼女は紐のようなモノを片手に持っていたのだ。
「それは? もしかして、犬の紐かな? どうしてそれを?」
「……な、なんて言うか」
「ん?」
晴馬は首を傾げる。
「まあ、今はいいわ」
「え?」
「本当になんでもないから」
晴馬の脳内は本当にクエスチョンマークでいっぱいだった。
これ以上、追及しても良い反応はもらえないと思い、それ以上は何も語らなかったのだ。
二人は部室に向かい、部屋の戸締りと小動物らへの餌槍を終えた後、学校を後にするのだった。
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