第2章 王都までの道

第1話 酒宴

 どうしてこんな辺鄙なところに城壁まで備えた宿場町が成り立っているのか、その一つの答えがこの定期的なダークベンソンの襲来だ。

 この魔物は魔物であることを除けばほとんど大型の鹿と同等の存在なのだが、そうである以上その肉は美味い。

 魔物の肉にありがちな解毒が必要とかそういうこともなく、通常の鹿と同様に捌いて火を通せば食することができる。

 町の一つの有力な収入源となっており、この魔物の肉をさばいて干したものが大きな街に出荷されているという。不在にしていた男たちはこれを運ぶために出ていっていたとのことだ。

 

 その意味で、私の倒し方はやや不評だった。

 上手いこと首や頭を串刺しにしていたものや雷を付与した剣で倒した個体ならともかく、胴体をぶちぬいた土の槍は内臓を巻き込んでいるため土槍で倒した多くの個体の肉が内臓の汚物で汚染されることとなってしまった。

 そのためきれいな枝肉として加工・出荷することができず町でトリミングしたブロック肉として消費しきれない分は焼却されるとのこと。

 もちろん事前にそんな説明は聞いていないし、状況が状況だったからお咎めがあったわけじゃないけれど。


 夜が明けはじめた町は喧騒に包まれている。

 主に私が土槍で倒したダークベンソンを中心に焼肉やフライにソテーといった鹿肉料理が振舞われているのだ。出荷する商品にならないからだけど。つい数時間前まで戦っていた者達にとってはごちそうの時間。


「かんぱーい!」


 池がある町の広場。乾杯の合図とともに木製のグラスがぶつかり合う音が響き渡り、お酒を片手に焼きあがったお肉を頬張る。

 私の周りに陣取るのは一緒に門外に出て戦った野郎共だ。

 私は頑張った!彼らも頑張った!

 だから遠慮なく食べる!飲む!


「いやー、命がけの戦い後の肉と酒は格別だぜ!」


「ホントね!」


 3つのテーブルに分かれて座っているそれぞれの中央に大皿に盛られた肉料理の山がそびえたっている。

 2枚3枚とまとめて口に運んでいく。

 旨い。旨すぎる。

 遠慮するのが馬鹿らしくなるほどの肉の量がありまだまだ調理している肉も山ほどあるので一同欲望の赴くまま肉にフォークを突き刺していく。


「ところでレベッカ嬢ちゃんはいくつなんだ?」


「15よ15!」


「おい成年なりたてかよ。そんなに飲んで大丈夫か?」


「へーきへーき!」


「あははは!仕方ねえな!さあ飲め!」


 煽られてジョッキに入った果実酒に近い何かを口から流し込む。

 前世はそこそこ強かった。きっと現世もそうに違いないと確信して遠慮なく飲む。


「ぷはー!不味いわね!このお酒!」


 微妙な甘みに渋みがあってアルコールは高そうだけどそこはしつこくなくて飲みやすいという評価しにくい謎の酒。

 不味い酒で旨い肉を流し込む不思議な感覚。でも、癖になる。

 ちなみにさっき、一口飲んでこれは冷やした方が絶対うまいと断言した私が魔術で作り出した氷水の中に樽が放り込まれた結果、冷えた酒が皆に振舞われている。

 大正解だ。これが常温だったらとても飲めたものではない。


「それにしてはいい顔してるじゃねえか。てか嬢ちゃん酒の味わかるんだな。確かにこの酒は不味いよな!」


「お酒の味くらいわからないと旅人なんてやってられないわよ!」


 お酒がまずいこと以外は噓をついているが、こんな場所の受け答えなんてこんなものだ。

でも不味いけどうまい。

 一仕事を終えた後に飲むお酒は美味しいものだ。


「いやしかしよ、レベッカ嬢ちゃんがいなかったらどうなってたかわかんねえなあ」


「まったくだ。あんな土槍魔術見たことねえよ」


自分としては不本意なやり方だったのだが、褒められるのは悪い気はしない。


「ふふん!あんなもん朝飯前よぉ!あははは!!」


「おう嬢ちゃん我らが英雄!ほれ一気!一気!」


「任せなさい!ゴクッゴクッゴクッゴクッ…ぷはっぁ!」


 煽られお酒を飲みほす。


「でも悔しい!最後は結局あの人たちに助けられちゃったもん!」


 指さす先には夜にもかかわらずこの街に到着した隊商の一団だ。彼らも寝る予定をやめて肉をほおばっている。


「あいつらが毎年この時期にやってくる隊商だ。王都と東の街を行き来してるんだとさ」


 武器屋の親父が教えてくれた。


「へえ~」


 でもぐるぐる回り始めた頭ではあまり頭に入ってこない。いい感じの身なりの男がいてその周りに女もいる光景が目に入ってくる。

 

「この国を牛耳る大商人の一人でな、レベッカの嬢ちゃんなら大丈夫だと思うが粗相のないようにしてくれよ?あの人たちが毎年落とす金や物資がこのちっぽけな町では重要な収入源なんだ」


「大丈夫よ~そんなことしないわ。私だってあの人たちについていきたいんですもの」


 前世では貴族や王族と付き合いもあったしきっとだいじょーぶだいじょーぶ。

 

「でもそんなのはあとあと!おじさんお酒足りてないんじゃないの?ほらほら!」


 手元にあった酒瓶の酒を注ぐ。


「お、お酌してくれんのか。じゃあ俺も」


 武器屋の親父は私の手から酒瓶を半ば奪い取り私の空になったグラスに酒を注ぐ。


「かんぱーい!」


 同じように酒を補充した野郎共と再度の乾杯の後に肉をほおばる。


 ああ最高だ。

 気のいい連中と飲む酒は。

 前世でもなんどかこういうことがあったっけ。

 もういくらでも飲める気がした。


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