✦第14話✦ 悪魔の遊び!?

 シロンを探そうにも、見渡す限り、ただの赤黒いアスファルトの地面がどこまでも続いているだけ。

 ところどころにある大石のカゲに隠れてるのかも知れないけど、それでもシロンを探すのは大変な気がする。

「シローン! 出てこーい!」

「出てこい悪魔デビルの使い魔!」

 あたしとキョウスケは、ムダだと思いながらも声を張り上げる。

 ──と。

「呼んだか?」

 めちゃくちゃフツーに、その場にひょっこりと現れるシロン。

 どおっ、とあたしとキョウスケは、大阪の名物・吉本新喜劇のように倒れた。

「いや、シロン!」

「すぐ出てくるんかいっ!」

 涼しい顔で現れたシロンに対して、あたしとキョウスケはするどいツッコミをいれる。

 シロンは、ふわぁあ〜、とあくびをしながら

「なんだよ。呼ばれたから出てきたんだろーが。用がないなら帰るぜ。──ちなみに、オレさまの家は、地獄番地6丁目なんだ。まあ、歩いて来なくても悪魔デビル魔法マジックで瞬間移動だけどな」

「んじゃ」と帰りかけるシロンに、あたしとキョウスケはあわてて呼び止める。

「ち、ちょっと待ちなさいよ! あのんちゃんのココロを返して!」

 なにも用がないのに、地獄こんなところにまで来るワケないじゃんかっ!

 シロンの大ボケ! とあたしは、心の中で毒づく。

「ちっ。やっぱりそれか。あのんのせいでめちゃくちゃに傷ついたっていうのに、このお人好し共め。……まァ、面白そうだから、オレさまの遊びに付き合ってくれたら、返してやらんこともない」

 悪魔デビルの使い魔の遊び⁉

 ……なんだか、めちゃくちゃ怖そうだけど、さっきのでメンタルが強くなったあたしと、大事な幼なじみを助けたいってキョウスケの答えなんて、そんなの決まってる。 

 いよーし! やってやろーじゃんっ!

 望むところだよっ!

「やる! あたしたち、シロンの遊びに付き合う! 約束は、ちゃんと守ってよね!」

「言ったな」

「ああ!」

 キョウスケが威勢いせいよく返事する。

「どんと来いっ!」

 あたしだって!

 シロンは、真面目な表情になって、あたしたちに向き合う。

「じゃー、まずは、お前たちの気を見立てる。これができるのは、悪魔デビルの使い魔であるオレさまとクロン、全ての使い魔だけだ。気とは、生まれた時から元々持っている素質に近い。──になは、炎の気が強いな。対してキョウスケは水だ。相性は、めちゃくちゃ良い時もあれば、反対に、悪い時もある……」

 シロンは、「面白いな」と笑ってから、続けた。

「お互いの気を打ち消そうと、あらゆるを使って、本気で相手の気を弱らせろ。交互にな。オレさまには見えている。本気で相手を弱らせるコトバを、吐いているかどうかがな」

 相手の気を、弱らせる……。

「気の強いになのことだ。オレさまは、キョウスケがになのに傷ついて、炎の気が先に勝つ方にカケル。オレさまの読みがハズれて水の気が先に勝ったら、約束通りあのんのは返してやるよ。言っとくが、もし炎の気がわざと負けるように小細工したなら、あのんの命はない」

「どんなコトバでもいいのか?」

「なんでもかまわない──始めろ」

 立ちつくすあたしとキョウスケ。

 えーっと、炎の気が勝っちゃいけないならあたしは、とにかくキョウスケを傷つけちゃいけないんだよねっ。

 でもそうやってヌルいコトバばっかり選んで攻撃してると、シロンにバレちゃう……。

 あたしの心を読んだみたいに、「そのとーり」と、シロン。

 あぁああ〜〜。難しい!

 いっそキョウスケが、めちゃくちゃあたしを傷つけるコトバを言ってくれたらいいのに!

 って。めちゃくちゃヘンな話だけど、しょーがない。

「き、キョウスケの、バカ。アホ! でべそ! 小学生でシルバーピアスとか、不良だぞーーー! 足くさそう!」

「てめっ……!」

 フーッ、まずは、こんな感じかな?

 あたしの言葉に、キョウスケは、かちんときた様子だ。

 次は、キョウスケの番。

 もうこの際、傷つく準備は出来てるよっ!

「に、になは怪力で、いつもすぐ泣いてうぜぇ!」

「なっ!」

 キョウスケのアホーー! そんなことじゃあたしは傷つかないよ!

 みんなは覚えてるかな? 

 なんてったって、地上にいる時のあたしの小学校でのあだ名は、【ウルトラ怪獣かいじゅうにな】だったんだからねっ!

 ちょっとやそっとじゃ、この怪力にまつわる悪口には反応しないよッ!

 ──今度は、あたしの番。

 キョウスケを傷つけるコトバ……?

 い、言いたくない……。

「人のこといつも怪力怪力言って、あたしだって、好きでこんなに強いわけじゃないんだからねっ! キョ、キョウスケなんか、死んじゃえっ!」

 ぐ、とキョウスケが胸をつかれたように顔をしかめる。

 あたしの放った、ヒドいコトバが、キョウスケの心をえぐったのがわかった。

 やばい!

 言いすぎた……?

 キョウスケが傷ついちゃったら、シロンの思惑おもわく通りになっちゃう!

 ところがどっこい。

 キョウスケは、言い返してきた。

「オレだってなあ! 今まで言ってなかったけど、地上に家族がいんだよ! お前の怪力のせいで、おふくろやオヤジや妹がいつか天国ここに来たとき、ケガして会うわけにはいかねーんだよ!」

 胸がズキッと痛んだ。

 そうだよね……。

 あたしに、家族おとんがいるように、キョウスケにだって、大切に想う家族がいるんだ。

 これは、あたしの炎の気も、だいぶ弱ったんじゃない?

「な、なによそれ! ひっどーい! キョウスケなんか……ッ」

 ついつい勢いで、出てくる言葉。

「キョウスケなんか、だいっっっきらい!!!!!」

 キョウスケが、顔をゆがめて、心底傷ついた表情をする。

「……あ…………」

「水の気が、消えた。オレさまの勝ちだな」

 シロンの冷静な声。

 ど、どうしよう!?

 あたしたち、負けちゃった……!

「約束通り、あのんのは渡さない。天国へ帰るんだな」

 すると、それまでずっとだまっていたクロンが、口を開いた。

「シロン、待て。ずっと前に、お前が食べたいと言っていた、天国のプリンをやるクロ。それでどうクロか」

 クロンが、どこに持っていたのか、プリンを出してきてシロンに見せつける。

「天国の、最高級プリン……」

 シロンが、クロンの差し出したプリンにくぎづけになる。

「……は、はんっ! オレさまが、そんなもの欲しがるとでも!?」

 ダラダラダラダラ。

 言葉とは裏腹に、明らかに、シロンの口からヨダレがしたたり落ちる。

「オレがいつも持ち歩いている、最高級プリンだクロ。ほーれほーれ! 天国の最高級プリンは、口溶けなめらか。地上の倍甘いカラメルソースをふんだんに使っているクロよ〜」

 な、なにこの状況。

「これを、お前にくれてやるクロ。だから、あのんのを返せクロ!」

 クロンが叫ぶ。

「……チッ。しょーがねぇな。あのんのを返してやるよ」

 ななななっ⁉

 なにこの展開!

 クロンのプリンで勝っちゃった!

 嬉しいけど、あたしとキョウスケが、悪魔の遊びでお互い傷つけ合った意味はああっ⁉

 ぱああっ、とまばゆい光とともに、ガラス細工でできたようなが、コロン、と転がった。

 あたしとキョウスケは、シロンからそれを受け取る。

 ええいもうっ!

 この際、とやかく言ってらんない!

 結果オーライだ!

「たしかに受け取ったぜ!」

「ヨシッ。あやみんとセイジに伝えよう! 大岩に戻らなきゃ! キョウスケ、死んじゃえなんて言ってごめんね!」

「気にしてねーよ!」

 パシッ、とハイタッチするあたしとキョウスケ。

 大岩の前には、あやみんとセイジがすでにいた。

「になさん、キョウスケくんっ!」

 あたしたち二人に、かけよるあやみん。

「『魔物の心臓』のありかがわかりましたわ!」

「ほんと⁉」

「さっきそこで、ほかの天使エンジェル候補生たちが話してるのを聞いたんだ。『悪魔の心臓』は死神が持ってるって」

 セイジが説明する。

 ──死神⁉

 めちゃくちゃ不穏ふおんなワードに、あたしはたじろぐ。

「じゃっ、こっからは、ライバルだってことで。じゃーな!」

 セイジが去っていく。

「その死神のところへ、急いで向かおう!」

 あたしは、キョウスケとあやみんと一緒にかけ出した。

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