STAGE✦3!

✦第13話✦ 最終試練!

 ──夜、夢を見た。

 あたしがまだちっちゃかった頃、おとんが誕生日に買ってきてくれた、かき氷器。

 かき氷器なんて、誕生日プレゼントにするの、変だって思うよね?

 でも、5歳だったあたしは、かき氷が大好きで、特にいちご味のシロップをかけたかき氷がもうたまらなくだーい好き♡だったの。

 もちろん、今でも好きだよ。

 あたしが生まれてすぐ死んじゃったママも、あたしと同じで、いちご味のかき氷が大好きだったんだって。

 おとんは、夏になると毎年、「よーし、今年一発目のかき氷作るか!」って言って、作ってくれた。

 ただ、あたしも5歳になって、「あたしも作りたい!」って自分で作ろうとしたらね。

 ────バキッ☆

 誕生日に買ってもらったかき氷器は、ハンドルが取れて、見事に壊れた。

 その頃から、あたしは怪力だったんだよね。

「わああーん! かき氷食べられないぃ〜」って泣きじゃくるあたしに、おとんは、その夏かき氷器をまた買い直して、あたしが力の加減を覚える7歳の頃までかき氷を作ってくれた。

 おとんは、「ハッハッハ! になはさすがの怪力だな〜! 多分、この俺に似たんだろーな」って笑いながら、あたしがかき氷器を壊したことについて、ゼンゼン怒りもしなかった。

 ────「にーなっ、宿題頑張れよ〜。わからないところないか?」

 おとんだって、ゴリゴリの体育会系で、勉強とかニガテなくせに。

 ────「喜べにな! 今日の夜ご飯はシチューだぞ〜!」

 あたし、シチューは、おとんの作ったのが一番好き。

 ────「洗濯物は自分で洗濯かごにいれなさい!」

 いつも、ちゃんとしかってくれてたね。おとんだって、くっさい靴下そのへんに脱ぎっぱなしにしてたけど。

 ────……「おとん、必ず、会いにいくからね……」

 ぱちっ☆

 朝。

 目を覚ますと、あたしは泣いていた。

 最終ミッションのプレッシャーからか、おとんの夢なんか見ちゃったせいで、ゼンッゼン眠った気がしない。

 でもでもっ!

 あたしは今日、ゼッタイにトップになってみせる。

 そんで、家族と──おとんにもう一度、再会するんだ!


 * * *


「えーっと、それではこれから、最終試練の説明をする☆ この試練は、トップの成績班を決めるために行う。天使コースも悪魔コースも関係なく、おぬしら天使エンジェル候補生たちには、地獄に行ってもらう。ほっほっほー☆ そんなに緊張することはない。──地獄にある『悪魔の心臓』を見つけて、とってくるだけじゃ☆」

 ──ついに最後の試練!

 悪魔の、心臓ですってぇ?

 どっきん、どっきん、どっきん!

 うーっ、それにしても、心臓がバクハツしそうなくらい、おごそかすぎる雰囲気!

 なに⁉

 講堂を包み込む、この緊張感はっ!

 あたしは、満月みつる校長先生の話を聞きながら、全身から出る冷やアセが止まらない。

 おとんからもらった胸のネックレスをにぎりしめ「おとん、必ず会いに行くから、待っててね」と祈りをささげる。

 あのんちゃんは、クロンの天使エンジェル魔法マジックで、今は姿を消している。

 講堂には、第523期エンデビ学園の生徒、全天使エンジェル候補生たちが集まっていて、その数、ざっと100人くらい。

 その中でも、トップ入学生のあやみんは、やっぱりめだっちゃってる。

「宝来あやみがいるチームはいいよな〜」「楽できそう」なんて、そこかしこから嫌味が聞こえてくる。

「でもあの子、意外と役に立たないらしいよ」

「今日はなぜかいないあのんに、前に聞いたけど、桃井になのお荷物なんだって」

 入学式の時にあのんちゃんのグループにいたいじわるな男の子と女の子たちの発した言葉に、あたしは、ブチ切れた。

「あたしがあやみんをお荷物なんて、そんなことひとっことも言ってないし、思ってない! あやみんは、年下だもん! なにさ! これから大事な最終試練なんだから、勝手なことばっか言わないでよッッッ!」

 叫んでから、はあッ、とあたしは息をつく。

「おい、にな。ほっとけ。あいつらの言うことなんか」

 隣に並んでいるキョウスケが、真剣な顔で「あやみは、お前にケンカしてほしくねーみたいだぜ」と言って、あたしの後ろにいるあやみんを見る。

「なんだ? キョウスケ。お前もあのんと一緒に、オレらのグループにいたじゃん。いまさらなにかばってんだよ?」

「あーっ! わかった。キョウってば、同じチームになった桃井さんのことが好きになっちゃったんだ?」

 キョウスケは無視する。

「『悪魔の心臓』を無事に見つけだして天界へと持って帰ってきたチームだけが、最高の評価である『トップ天使候補生』の称号を与えられるのじゃ」

「大切なのは、チームの絆じゃ。友を信じられるチカラが試されるじゃろう」

「ワシは天使候補生たちを待っとる間、天国番地2丁目にある超美味しいクレープ屋のクレープを食べておるからのぅ〜☆」

 満月みつる校長先生のその一言に、あたしはガクゼンとする。

 あのんちゃんとセイジ、そしてシロンのせいで、昨日あたしが食べそこねた、クレープ!

 くーっ、満月みつる校長先生、うらやましい……!

「それでは、あのゲートをくぐって地獄へと行くのじゃ☆ 諸君しょくんらの健闘けんとうを祈る。レディー、ゴーじゃあっ☆」

 地獄へ通じるゲートをくぐる寸前、あたしとキョウスケとあやみん、そしてセイジが集まる。

「いい⁉ 今日は、あのんちゃんのココロを取り返すためにシロンを探しつつ、『悪魔の心臓』も探す! これでいこう! セイジは別のグループだから、心臓は奪い合いね!」

「わかりましたわ」

「にな、あやみ、はぐれるなよ!」

 とキョウスケ。

「ぜってぇ心臓は渡さねー、オレだって、トップの成績をとって、地上にいる妹の病気を治すんだ」

 とセイジ。

 そっか。あたしがおとんにもう一度会いたいって気持ちのようにみんな、叶えたい願いがあるんだね。

 天使エンジェル候補生たちの戦いが、始まっちゃった。もう戻れない。

 銀のケープをつけたエンデビ学園の先生が、『魔界へ通じるゲートを開門する! 第523期天使エンジェル候補生たちに幸あれ!』と叫ぶ。

 ええい、もう、やるしかない!

 ゲートの中へ足を踏み入れた瞬間、ブワッ、と視界が白い光で満たされた。


 ★ ☆ ★


 ────。

 あれ? さっきまで明るかったのに、急に電気を消したかのように暗くて、それに寒い……。

 ふと下を向くと、地面がふわふわの雲でできている天国とは違って、まるで固い、ゴツゴツした石ころだらけのアスファルト。

 キョウスケたちの姿はない。

「わわっ、さっそくはぐれちゃった! キョウスケ! あやみーん! どこにいるの⁉」

 あたりからは、物音ひとつしない。

 こんな、うす気味悪いところに一人だなんて、ゼッタイいやなんだからあ!

 って。

 カサカサカサ。

 遠くの方で何か音がする。何か見える。

 動いてる?

 ん?

 えっ、え⁉

 うそ、うそうそ!

 ギャアアアア! やめてえええー!

 めちゃくちゃデカイ、超巨大グモが、こっちにむかって突進してくる!

 こんなキケンだけは、さすがのあたしも予測してないんですけどおお!

「いやあああ! 誰かああ! こんなハプニングはカンベンしてぇえ! ヘルプミィイイ! へるぷみっ……!」

 逃げまどうあたし。

 グイッ!

 横へつられる体。

 セイジが現れて、あたしのうでをひっぱってくれた。

 きゅうう〜☆

 超巨大グモは、そのままあたしの後ろにあった大石に、どっしーん! と激突して、倒れた。

「セイジ!」

「何やってんだよ。……天使エンジェル候補生が飛ばされる場所は、ランダムみたいだな」

 面倒くさそうにそう言って、周囲を見回すセイジ。

「あ、あの、ありがとう。めちゃくちゃ助かりました」

 あたしは、ペコリと頭を下げてお礼を言う。

 と、そこに、キョウスケが走ってやってきた。

「にな!」

「キョウスケ!」

「──ったく、クモに襲われかけるなんてな。だっせーの。もっと早く気づいて逃げるくらいしろよ。この、アホにな!」

 かっちーん!

 何よ! キョウスケめ、無茶ばっか言って!

「アホじゃないもん! 実際襲われてみれば、あんたも恐怖にひれ伏すあたしの気持ちがわか……何怒ってんの?」

「……あ?」

 キョウスケは、なんとなくイライラした様子で、フキゲンオーラをまとっている。

 ……何なのよ?

「は、なんだよ、キョウスケ。オレが怪力チビ女を助けたことに、妬いてんのか?」

 はあっ⁉

 セイジが発した、ショーゲキの一言。

 セイジ、何言ってんの⁉

「はッ⁉ なななっ、んなワケねー! どいつもこいつもバカにしやがって、黙れ! ……あやみは? どこいった?」

「ここにいますわ」

 って。のんきにそんなこと話してる場合じゃなかった。あのんちゃんのココロをなんとしてでも取り返して、最終試験に合格して、あたしは、おとんに会うんだから!

「シロンを探すんだろ? 効率良いから、二手に別れよーぜ。オレはあやみちゃんと組むから、怪力チビ女はキョウスケと一緒な」

 セイジがあやみんに「よろしくなー」と声をかける。

「クロンは? あたしの使い魔だから、あたしと一緒にいなきゃだよね?」

 ずっと黙っていたせいで、もはや存在を忘れかけていた、あたしの隣でふわふわと浮いているクロンに問いかける。

「あやみとセイジが心配だから、トクベツにそっちにつくことにするクロ」

 そんなこと出来るんかいっ!

 あたしは心の中でツッコミをいれた。

「じゃあ、またあとで! しばらくしたら、全員この大石の前に集合ね!」

 あのんちゃん、あたしたちが、スグに助けてあげるから。

 待っててね……!

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