✦第12話✦ 悪魔の使い魔シロンを追え!
「そ、そんなっ……! どうしてなの、シロンの
あのんちゃんが、たじろぐ。
「になさん!」
「にな!」
その時、あやみんとクロンが、屋上の扉を開け放してやってきた。
クロン、無事だったんだ! 良かったっ!
あたしの様子を見て、ほっと息をつくあやみん。
「良かったですわ。いつものになさんで……」
「あっ!」
「?」
あたしは、あやみんの言葉もそこそこに、給水塔の上に座って、あたしが操られてキョウスケを攻撃するのをずっとニヤニヤ見ていたオトコを指差す。
「セイジ! あたしのことが好きとか、このうそつきがあ! 全部思い出したんだからね!」
あたしったら、セイジのねこを被った態度にまんまとダマされて、ここまで連れてこられたんだ!
段々と、でもはっきりと、戻りつつある記憶。
「あやみん、さっきは突き飛ばしてごめんね……っ!」
「そんなことまったく、気にしてませんわ」
ふわりと笑ってくれるあやみん。
セイジは、赤い髪をかいて「ちっ」と面倒くさそうに舌打ちをする。
「お前みたいな怪力チビ女、誰が好きになんかなるかよ! 一生クレープでも食ってろ! キョウスケも、お前のせいで大変な有様みてーだしな!」
「言ったな! この!」
うーっ! このこにくらしい態度、はじめて出会ったときのキョウスケと一緒だ!
あたしは、握りこぶしを作って給水塔の上に駆け上りかけてハッとする。
って。キョウスケ? 大変な有様って何が……。
ふとキョウスケの方を向くと、キョウスケが頭から血を流して倒れている。
──そうだ! あたし、操られていたとはいえ、キョウスケのこと、この怪力で傷つけちゃったんだ!
「や、やだ! ごめん! ごめんなさい! キョウスケ、あたし……!」
あたしはあわてて、キョウスケに駆け寄る。
キョウスケは、頭を押さえながら、痛みを堪えるかのように目をつむって言った。
「いいんだよ。お前が、わざとやったんじゃねぇって、わかってるから。こんなん全然、痛くなんかねー……泣くな、にな」
「……へ?」
気づくと、あたしは、キョウスケにひどいことしたんだって、その思いから無意識に目からぽろぽろ涙を流しちゃってた。
ただのいじわる男子だって思ってたのに、優しいキョウスケに、なぜだかドキドキが止まらない。
ほ、ほえっ? あたし、どうしちゃったの?
そんなあたしとキョウスケを見て、シロンがうざったそうにこう吐き捨てた。
「けっ。オレの魔法が解かれるなんてな……。おい、あのん&セイジ! オレは地獄に帰るぜ。……あのん、約束通り、お前のココロはもらっていくからな!」
ビクッとひるんだあのんちゃんの胸の辺りから、赤い光がほとばしった。
そしてその光は、吸い寄せられるようにシロンがかざした手のひらへと吸い込まれていく。
「待つクロ!
「うるせー!」
シロンが姿を消したあと、残されたあたしたち全員は、バタッとその場に倒れたあのんちゃんに駆け寄る。
「あのんちゃんっ! 大丈夫⁉」
「あのん、おい! しっかりしろ! セイジ! あのんのココロを
セイジが、気まずそうに、苦虫をかみつぶした表情で言う。
「シロンを地獄から呼び出すにあたって、あのんは悪魔の契約をしたんだ。自分のココロをシロンにやるから、そのかわりキョウスケを桃井になにとられたくない! って。桃井になの意識を操り、シロンの
「になさんにとって、大事な人……。そこに、キョウスケくんも含まれてたんですね」
「そーいうこと」
「あのんちゃんの、ココロ……。ねぇ、クロン、それって一体なんなの?」
クロンが説明する。
「ココロだから、あのん自身の記憶クロ。今のあのんは、抜けがらの状態クロ。言いづらいクロが……それほどまでに、キョウスケをになにとられなくなかったんだろうなクロ」
あのんちゃんがキョウスケに抱く恋愛感情。淡い恋ゴコロ。その確かな想いと、同時に自分があのんちゃんにそこまでキラわれているんだってことに気がついて、あたしは、胸がきゅうっと痛くなった。
「シロンが帰ってしまった以上、どうすることもできないクロよ……」
「あのん……」
キョウスケが、気を失って倒れているあのんちゃんを見て、やりきれないという風に拳をぎゅっとにぎりこんだ。
キョウスケもあやみんも、セイジも、そしてクロンですらなにも言えずに黙りこむ状況の中、あたしは、「よし!」と決意したように言ってのけた。
「あのんちゃんのココロを取り戻しに、みんなで地獄へ行こう!」
「「「「えっ」」」」
みんながいっせいにあたしを見る。
セイジが、まず口を開いた。
「おい、怪力チビ女。みんなで……ってことは、オレもそこに入ってるのか?」
「当たり前だよ! あのんちゃんと組んで悪さして、こんなことになったんだから、責任とりなさいよねっ! みんなでキョーリョクすれば、きっと大丈夫だよ!」
そうだよね? おとん!
キョウスケがあたしの言葉にうなづく。
「そう、だよな。みんなで協力すれば……」
「になさんの言うとおり、きっと大丈夫ですわ」
キョウスケとあやみんに対してセイジは、また赤い髪をかきながら面倒くさそうにこう言った。
「カンタンに
──むっかぁ!
「なにおう! あたしより、うその告白なんかして人をダマすあんたの方が、ゼッタイに、百万っっっ倍、悪いんだからね!」
なによ、コイツ!
キョウスケが、なんとなくとじとっとした表情で、あたしがセイジになぐりかかるのを見ている。
──……?
「ちょうど、明日発表される最終試練の内容は、
クロンが言う。
へっ⁉ 明日?
じゃあ、明日の最終試練の出来で、あたしは、おとんに会えるのかどうかが決まるんだ……。
──こんな大切な時に、あのんちゃんの、このことで……時間を、とられたくない。
その気持ちは、確かなもの。
あたしは、なんとしてでもトップの成績をとらなきゃいけない。
……でも。
あのんちゃんは、キョウスケの大事な幼なじみで、キョウスケが大切に思っている女の子。
あたしは、胸のネックレスを無意識にぎゅうっとにぎりしめた。
「みんなで地獄に行くなら今回は、おそらくあやみが一役買うことになるクロ」
クロンは、「最終試練では、今期トップ入学生にトクベツな指示があるみたいだからなクロ」と続けた。
「私……ですか? わかりましたわ」
あやみんはクロンに返事する。
「あやみん、大丈夫?」
「大丈夫ですわ。私は、になさんとキョウスケくんに、ついていくだけですから」
あやみんの言葉に、あたしたちは深くうなずいた。
「いよーし! そうと決まれば明日は、いざ地獄へ出陣!」
あたしのかけ声に、キョウスケとあやみんが返事する。
もうこうなれば、無敵だよねっ。
「オーッ!」
「おーっ、ですわ」
──あたしは、仲間が想う大事な友達を助けたくて、みんなでチカラを合わせようとしただけなの。
それなのに、あたしとキョウスケとあやみん、3人の絆がはじめて試されることになるなんて、この時にはまだ誰も、気づいてなんかいなかったね。
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