✦第10話✦ あのんちゃんのワナ
キョウスケと地上へ行ってから1週間。
あのあと、あたしとキョウスケは、クロンの
「えーっと、『自分の意思ではないにしても、先生に無断で地上へと降り立つことは、絶対にだめなことが今回の経験で身にしみてわかりました。反省しています』……っと」
これが、あたし。
「『こうして反省文を書いてはいますが、元はといえばになのネックレスを池に放り込んだ天使コースの生徒が悪いとオレは思います。ミッションの得点がもらえなかったのも納得できません』っと」
以上が、キョウスケ。
そう! 天使コースの生徒のケンカを仲裁したあたしとあのんちゃんの班は、あたしのネックレス騒動の不祥事(?)から、得点がもらえなかった。
あのんちゃんはそのことで、めちゃくちゃあたしに怒っているらしい。
そのことに関しては、ほんのちょっとだけ悪いと思ってるんだけど……。
でもでもっ。あのんちゃんも、あたしの靴を捨てたりしたんだし、お互いさまだよね⁉
今回得点がもらえなかったそのかわりに、最終試練を頑張るしかない!
まだ、終わってない。
巻き返してみせるからね……っ!
そしてこの日も、エンデビ学園では地上の小学校となんら変わらない普通の授業が行われていた。
「むふふふ。はやく放課後にならないかなぁーっと」
「桃井にな! 顔がニヤけてるぞ。どうしたんだ?」
授業中。「ちゃんと先生の話を聞きなさい!」と、先生に怒られてるのはあたし。
顔がニヤけちゃうのにもワケがあって。
じ・つ・は!
今日は学校が終わってから、あやみんと一緒に、天国番地2丁目の、超美味しいって有名なクレープ屋さんに行こうって約束してるんだ。
その美味しさに、天国に来た人はみんな感動しちゃうらしいんだよね。
ぐふふ。楽しみ〜っ。
★ ☆ ★
「あやみーん! おまたせっ! 行こっか!」
授業終わり。噴水の前で待ち合わせていたあたしとあやみん。
クレープが食べられるのが楽しみすぎて、にっこにこの笑顔で現れたあたしに、あやみんは言った。
「はい。あの、になさん」
「ん?」
「キョウスケくんは、誘わないのですか?」
「キョウスケ……」
──オレの胸に来い
──になが泣いてるのを見ると、なんかすっげぇツラくなんだよ。オレが! だから……ッ!
……色々思い出したら、顔が自然と熱くなって、それで──。
──かーっ。
顔を真っ赤にして、しばらく思いつめたような表情をするあたしを見て、あやみんが不思議そうに首をかしげる。
クロンは、なぜか「ごほんごほんっ。あ〜、それにしても今日は、良い天気クロな〜」と、耳を赤くして空を見上げている。
…………?
しばらくして、あたしはハッと我にかえった。
「いっ、いいのいいの! てか、なんであいつ⁉ クレープ屋さんには、ふたりで行こっ!」
あわてて手をブンブンと勢いよく振りながら、あやみんに言った。
そうだよ! なんであたし、キョウスケと地上に行った時のことなんか思い出してんの⁉
それで顔を赤らめるってまじか!
あやみんは、ふと思い出したように、
「そういえば、キョウスケくんを先ほど廊下で見かけましたわ。伊集院さんと楽しげでした」
と言った。
……あのんちゃん。
「……ふぅーん」
なんでなのか、全然わかんないんだけど、ちくり、と胸に何か小さなトゲのようなものが刺さった気がした。
「じゃっ、行こっか!」
クレープ屋さんに向かって、ふたりで歩き出した時だった。
「桃井さんっ。ちょっといい?」
背後から、あたしを呼ぶ声。
現れたのは、2回目のミッションの時に、あのんちゃんの班にいた男の子。
名前は知らない。
「あっ。ごめーん。あたし今から、あやみんとクレープ……」
「好きだ!」
と、その男の子が、いきなり叫んだ。
へっ? 好き? クレープが!?
……って、そんなわけないか。
「好きって、一体何が……」
「オレは、セイジっていうんだけど……桃井さんのことを、好きになってしまったみたいなんだ」
どええーっ? あたしを、好き?
びっくりするあたしに対し、その赤髪の男の子──セイジが、わかりやすく顔を赤くして言う。
あやみんとクロンは、あたしの横でじっとなりゆきを見守っている。
「この前のミッションで、すごく一生懸命なところが、いいなって思って……。よかったら、屋上に来てくれない? 見せたいものがあるんだ」
──にな!
間違いなく告白されたっていうのに、あたしの心の中になぜか浮かんでくるのは、あたしの名前を呼ぶキョウスケの顔。
一体、なんでなんだろう。……なんで?
「……ごめん。あたし、告白の返事なら、今ここでできるから……屋上には、いけない」
横から、クロンが、「ちょっと失礼?」
あやみんが、「になさん、それは不誠実ですわ」
と言う。
「だって」とあたしがとまどっていると。
セイジは、ひかえめな態度から一転、「はぁ〜っ」と大きくため息をつくと、こう吐き捨てた。
「……チッ。やっぱだめか。おい、あのん。作戦失敗だぜ」
ほえ!?
その態度と、口調の変わりように、あたしたちが面食らっていると。
セイジの後ろから、スッ、と、あのんちゃんが現れた。
「──桃井にな。
見ると、あのんちゃんの横にふよふよと浮かんでいるのは、クロンと同じ、羽の生えた猫の使い魔だ。
でも、その羽が黒い。
クロンが叫んだ。
「お前は!
へっ⁉
あたしとあやみんがびっくりしていると。
「はん。そんなの裏ルートで一発だ。のーてんき
──クロンに、
「クロンっ、クロン! ちょっと大丈夫⁉」
「──
瞬間、ぱちん、と意識がそこで弾けた。
とたんに無くなる記憶。
何も考えられない。
あたしは横にいたあやみんを無言で突き飛ばした。
「きゃっ!」
「──桃井にな。来なさい」
あやみんが後ろで叫んでいる。
「そんなっ! になさん!」
あたしは、機械のような足どりで、あのんちゃんとセイジについていった。
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